原理原則ゴルフ

戦略と統計の原理/原理解説

プレッシャー下のパットとプレショットルーティン——査読研究で確認できること、割れていること

プレッシャーでパットは崩れるのか、ルーティンは効くのか。熟練ゴルファーの実験、事前ルーティンのメタ分析、効果が検出されなかった実験を査読論文で整理し、確認できたことと研究が割れている点、未確認の点を分けて示す。

監修・執筆:原理原則ゴルフ編集部(編集部)

「プレッシャーがかかるとパットが入らなくなる」「決まった手順(ルーティン)を踏めば防げる」。どちらもゴルフの世界で広く語られるが、スポーツ心理学の査読論文を読むと、話はもう少し複雑である。プレッシャーでパットがむしろ良くなった実験もあれば、ルーティンの効果が検出されなかった実験もある。本稿は、ゴルフのパットやプレショットルーティン(打つ前の決まった一連の準備動作・思考)を扱った査読論文のうち、本稿の執筆中にタイトルと要旨・本文を実際に開いて確認できたものだけを整理する。特定の指導法や商品を勧めるものではない。パットの転がりそのものの物理はパットの転がりの記事、パット数という指標の限界はパット数の記事を参照されたい。

要約

  • 熟練ゴルファーのパットは、動作が自動化されているため、意識的に動作を監視すると崩れやすい、という説明がある(Beilock & Carr 2001、査読論文)。ただし、プレッシャーで必ず悪化するわけではない。熟練ゴルファー50人の実験では、競争プレッシャーが高いほどパット精度が上がった(Cooke ら 2011、査読論文)。
  • プレッシャー下で崩れる理由は、「動作を意識しすぎる」説と「注意の容量が心配事に取られる」説があり、研究の結論は割れている。
  • 事前ルーティンの効果をまとめたメタ分析(複数研究を統計的に統合する手法)は、プレッシャー下の実験で g=0.70(95%信頼区間 0.24〜1.16)を報告する。一方、個別の実験には、効果が検出されなかったものもある(Wergin ら 2020)。
  • メタ分析の「ルーティン」は、呼吸・視線・握力など幅広い介入を含む。「この手順が最良」と言える証拠は、本稿が確認した範囲にはない。

1. 熟練者のパットは、なぜ「意識すると崩れる」と言われるのか

Beilock & Carr(2001)は、経験者と初心者のゴルファーを対象に一連の実験を行った。経験者は、個々のパットの記憶があいまいで、パットが手順として自動化されているとみられた。そのうえで、プレッシャー下では、パットでは成績が落ちたが、暗算に近い課題(アルファベット算)では落ちなかった。さらに、同時に別の課題をこなす訓練(二重課題訓練)では結果は変わらず、自分が見られている状況に慣れる訓練(自己意識訓練)で成績低下がなくなった。著者らは、この結果が「自動化された技能に注意を向けると成績が落ちる」という説明(明示的モニタリング説)と整合する、としている[1]。

同じ研究グループの別実験(Beilock ら 2002)では、経験者のゴルファーは、別の課題を同時に行う条件のほうが、パットの手順に注意を向ける条件より正確だった。ただし、サッカーのドリブル実験では、熟練者でも不得意な足では、手順に注意を向けるほうが良かった。つまり「意識すると必ず悪い」ではなく、技能の習熟度による[2]。

プレッシャー下の思考内容を調べた研究もある。Whitehead ら(2015)は、技量の高いゴルファーは、競技プレッシャー下で、特にパットで、技術的なルールへの意識が練習時より増えたと報告している。この変化は、「リインベストメント(自動化した動作に意識的に介入する傾向)」の得点と関連していた[3]。

2. プレッシャーでパットは悪くなるとは限らない

Cooke ら(2011)は、熟練ゴルファー50人を対象に、3段階の競争プレッシャーのもとでパットを行わせた。プレッシャーが高いほど、パット精度、不安、努力、心拍数は上がり、グリップの力は下がった。意識的な処理の自己報告と、インパクト速度には、「ほどほどの水準で最も大きい」曲線的な関係が見られた。媒介分析(途中の経路を調べる統計)では、努力と心拍数が、精度の向上を部分的に説明していた[4]。

この結果は、前節と矛盾するようにみえるが、研究ごとに課題・プレッシャーの強さ・参加者が異なる。本稿は、どちらが「正しい」とは判断しない。確認できたのは、「プレッシャー=悪化」という単純な図式では、少なくともこの実験は説明できない、という点である。

プレッシャー不安・評価懸念説明A:自動化の妨害動作を意識して監視説明B:注意資源の不足心配事が容量を占有パットの精度低下とは限らない
図2: プレッシャー下でパットが崩れる経路についての2つの代表的な説明(概念図。本メディア作図)。どちらが主因かは研究間で割れており、図は結論を示すものではない。

3. 事前ルーティンの効果はどこまで確認されているか

3-1 メタ分析

Rupprecht, Tran & Gröpel のメタ分析(Int Rev Sport Exerc Psychol 誌、2021年にオンライン公開、17巻1号 39–64頁に掲載)は、112の効果量を統合した。報告された値は、事前事後デザインで SMC=0.31(95%信頼区間 0.18〜0.44)、実験デザインの低プレッシャー条件で g=0.64(0.45〜0.83)、プレッシャー条件で g=0.70(0.24〜1.16)である。著者らは、効果がルーティンの種類・年齢・性別・技能水準などで差が出なかったと述べている[5]。

実験・低プレッシャーg=0.64 [0.45, 0.83]実験・プレッシャー下g=0.70 [0.24, 1.16]事前事後デザインSMC=0.31 [0.18, 0.44]効果なし(0)1.00.5四角=推定値、線=95%信頼区間(Rupprecht ら)
図1: 事前ルーティンのメタ分析で報告された効果量と95%信頼区間(出典の値を本メディアが作図)。含まれる研究の質や出版バイアスの評価は、本稿では確認できていない。

この数字の読み方には注意が要る。第一に、プレッシャー条件の信頼区間は0.24〜1.16と広く、「効果がある方向」ではあるが、大きさは不確かである。第二に、この分析が数える「ルーティン」には、一連の手順だけでなく、握力運動や視線の使い方といった個別の介入も含まれる(上記の要旨による)。第三に、研究間のばらつきや出版バイアス(効果が出た研究ほど公表されやすい偏り)の評価は、論文本文を開けなかったため、本稿では確認できていない。報道発表資料(EurekAlert 掲載。二次情報)は、800人・15競技のデータであり、因果関係や仕組みを証明するものではないという趣旨の注意を付している。

3-2 効果が検出されなかった実験

Wergin ら(2020)は、ビーチバレーのサーブ(54人)で、事前ルーティン、左手の握力運動、その併用、待機群を比較した。結果は、事前事後でサーブ精度に差がなかった。著者らは、ビデオ撮影によるプレッシャー操作が不安を高められなかったこと、ルーティンの作成が10分と短かったことなどを限界として挙げている[6]。これはゴルフではなく、「効果なし」の結論というより「プレッシャーが作れていない実験だった」という性質が強い。ただし、プレッシャーの作り方が研究の結論を左右することを示す例である。

3-3 ゴルフのパットでの介入研究

Vine, Moore & Wilson(2011)は、ハンディキャップ平均2.78の男子エリートゴルファー22人を、「クワイエットアイ(打つ直前にボールの一点を長く見続ける視線)」の訓練群と統制群に分けた。実験室の高プレッシャー条件では、訓練群の入った割合が60%、統制群が36%(本文からの値)で、訓練群は競技ラウンドでパット数が約1.9打減ったが、統制群は変化しなかった。著者らは、視線の持続時間がパット成績の分散の43%を予測した、と報告している[7]。ただし、被験者は22人と少なく、訓練内容に視線の指示だけでなく手順の指示が含まれる。ラウンド中のパット数は、ショートゲームの出来にも左右されうる。単独の小規模研究であり、他のゴルファーに一般化できるとは言えない。

4. 結論が割れている点と、読者が使えるヒント

整理すると、次のようになる。

  • 確認できた点: 熟練者のパットは、意識的な監視で崩れうる(ただし常にではない)。ルーティンのメタ分析は、プレッシャー下でも正の効果量を報告する。
  • 割れている点: 崩れる原因(意識しすぎか、注意資源の不足か)。個別の介入実験の再現性。
  • 確認できていない点: どのルーティン(手順の数・時間・内容)が最適か。コース上での長期的な効果。

Kent ら(2018)は、プレッシャー下のパフォーマンス介入の系統的レビュー(23研究)で、介入を4種類に分け、評価のために「現実に近い(文脈に即した)プレッシャー課題」を設ける必要があると提言している[8]。練習の側から言えば、「何をするか」より、「練習で本番に近い負荷をどう再現するか」のほうが、研究者が重視している論点である。

本稿で確認できなかったこと

  • Mesagno, Marchant & Morris(2008、The Sport Psychologist 誌)の、ルーティンによるチョーキング対策の研究は、書誌情報は確認したが、本文・要旨を開けなかったため、結果は本文で使っていない。
  • メタ分析の本文(出版社サイトは403で開けなかった)。本文中の数値は、大学研究ポータルに載る要旨による。研究の質・出版バイアスの評価は未確認。
  • Vine ら(2011)の本文中の数値は、論文本文のページ取得結果の要約に基づく。原図表との突き合わせはしていない。
  • プレッシャー下のパットで、日本の一般ゴルファーに同じ結果が当てはまるかは、確認した研究には含まれていない。

参考文献・出典

  1. Beilock, S. L., & Carr, T. H. (2001). On the fragility of skilled performance: What governs choking under pressure? Journal of Experimental Psychology: General, 130(4), 701–725. https://doi.org/10.1037/0096-3445.130.4.701(査読論文。要旨を確認)
  2. Beilock, S. L., Carr, T. H., MacMahon, C., & Starkes, J. L. (2002). When paying attention becomes counterproductive. Journal of Experimental Psychology: Applied, 8(1), 6–16. https://doi.org/10.1037/1076-898X.8.1.6(査読論文。要旨を確認)
  3. Whitehead, A. E., Taylor, J. A., & Polman, R. C. (2015). Evidence for skill level differences in the thought processes of golfers during high and low pressure situations. Frontiers in Psychology, 6, 1974. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2015.01974(査読論文。要旨を確認)
  4. Cooke, A., Kavussanu, M., McIntyre, D., Boardley, I. D., & Ring, C. (2011). Effects of competitive pressure on expert performance: Underlying psychological, physiological, and kinematic mechanisms. Psychophysiology, 48(8). https://doi.org/10.1111/j.1469-8986.2011.01175.x(査読論文。要旨を確認)
  5. Rupprecht, A. G. O., Tran, U. S., & Gröpel, P. The effectiveness of pre-performance routines in sports: a meta-analysis. International Review of Sport and Exercise Psychology, 17(1), 39–64. https://doi.org/10.1080/1750984X.2021.1944271(査読論文。要旨を確認、本文は未確認)
  6. Wergin, V. V., Beckmann, J., Gröpel, P., & Mesagno, C. (2020). Investigating cumulative effects of pre-performance routine interventions in beach volleyball serving. PLoS ONE. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0228012(査読論文。本文を確認)
  7. Vine, S. J., Moore, L. J., & Wilson, M. R. (2011). Quiet eye training facilitates competitive putting performance in elite golfers. Frontiers in Psychology, 2, 8. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2011.00008(査読論文。本文を確認)
  8. Kent, S., Devonport, T. J., Lane, A. M., Nicholls, W., & Friesen, A. P. (2018). The effects of coping interventions on ability to perform under pressure. Journal of Sports Science & Medicine. (査読論文の系統的レビュー。要旨のみ確認。確認できたURLなし)
注記: 図1の数値はRupprechtらの報告値、図2は概念図であり、本メディアによる試算は含まない。

よくある質問

プレッシャーがかかるとパットは必ず悪くなりますか?
必ずではありません。熟練ゴルファー50人の実験(Cooke ら 2011)では、競争プレッシャーが高いほどパット精度が上がりました。一方、Beilock & Carr(2001)の実験では、熟練者のパットがプレッシャー下で悪化しました。課題や条件が違うため、結論は割れています。
プレショットルーティンには効果がありますか?
メタ分析(Rupprecht ら)は、プレッシャー下の実験でg=0.70(95%信頼区間0.24〜1.16)の効果を報告しています。ただし信頼区間は広く、ルーティンには握力運動や視線の使い方も含まれます。ビーチバレーの実験(Wergin ら 2020)では効果が検出されませんでした。
どんなルーティンが最も良いのですか?
本稿が確認した範囲では、最適な手順を示す証拠はありません。メタ分析の著者らは、ルーティンの種類によって効果の差が出なかったと述べています。
パットのときは動作を意識しないほうがよいですか?
一概には言えません。経験者のゴルファーは、手順に注意を向ける条件より別の課題を同時に行う条件のほうが正確でした(Beilock ら 2002)。ただし、同じ研究で、不得意な足でのサッカーのドリブルでは、手順に注意を向けるほうが良い結果でした。