戦略と統計の原理/原理解説
なぜ「パット数」では実力を測れないのか——Strokes Gainedという発明
「ドライブは魅せる、パットは金になる」という格言は、統計的には裏付けが弱いとされている。Mark Broadieが確立したStrokes Gainedという指標が、なぜ従来のパット数統計より優れているのか、その原理を解説する。
「パット数」という指標の弱点
ゴルフのスコアを統計的に語るとき、長らく「1ラウンドあたりのパット数」が実力の指標として使われてきた。しかしこの指標には構造的な弱点がある。パット数は、その前のアプローチショットでどれだけカップに近づけていたかに強く左右されるため、パッティング技術そのものを単独で測ることができない。この交絡(他の要素の影響)が、従来指標の精度を損なっていた。
Mark Broadieが導入したStrokes Gained
この問題に対し、コロンビア大学ビジネススクール教授Mark Broadieは、2008年の論文でStrokes Gainedの分析を導入した。2011年の論文によれば、PGAツアーのデータ(2003〜2010年の800万ショット超)を分析し、あるショットの前後で「その地点から平均的なプレーヤーがホールアウトするまでに要すると期待される打数」を比較して、各ショットの貢献を数値化する。計算は概ね「打つ前の期待打数-打った後の期待打数-1打」で表される。たとえば「3.2-1.8-1=+0.4」のようになる。この方法により、ショットごとの貢献を、同じ状況からの平均的な結果との差として評価できる。2012年にはInterfaces誌に論文が掲載され、2014年には著書『Every Shot Counts』が出版された。PGAツアーは2011年にStrokes Gained: Puttingを公式統計に導入し、その後カテゴリを拡張した。
パットが説明するスコア差はわずか15%
Broadieの分析では、トップ10のプレーヤーと平均的なPGAツアー選手のスコア差のうち、パッティングが説明するのは約15%とされ、ロングゲームの方が差を生んでいる。2011年の論文でも、ロングゲームがスコアのばらつきの約3分の2を説明するとされている。「ドライブは魅せる、パットは金になる」という格言への統計的な反証として語られることが多い。ただし、「15%」という数値は複数の二次資料で引用されているものの、原典での該当箇所は本稿では確認できていない。アマチュアがスコアアップを狙う際も、パット数だけでなく、アプローチやセカンドショットの精度に伸びしろがあるかを、「その状況からの期待打数」との比較で捉え直すことが、練習の優先順位を決める助けになる。
本稿で確認できなかったこと
- 「15%」という数値の原典での該当箇所(複数の二次資料が一致して引用)。
- PGAツアーがStrokes Gainedの各カテゴリを拡張した時期の詳細。
- アマチュアが自分のデータで同じ分析をする場合の精度。
出典
- Strokes Gained Putting analysis(Mark Broadie、2011年) https://columbia.edu/~mnb2/broadie/Assets/strokes_gained_pga_broadie_20110408.pdf(著者の論文、本文引用確認)
- Assessing Golfer Performance on the PGA TOUR(Interfaces 42(2)、2012年) https://pubsonline.informs.org/doi/10.1287/inte.1120.0626(学術誌、書誌情報のみ)
- Every Shot Counts(Penguin Random House) https://www.penguinrandomhouse.com/books/309737/every-shot-counts-by-mark-broadie/(出版社情報)
- Unraveling the strokes gained mystery(Global Golf Post) https://www.globalgolfpost.com/more/unraveling-the-strokes-gained-mystery/(報道、要約のみ)
- Every Shot Counts summary(Shortform) https://www.shortform.com/pdf/every-shot-counts-pdf-mark-broadie(二次資料)
よくある質問
- アマチュアでもStrokes Gainedを計測できますか?
- PGAツアーのような精密なShotLinkデータがなくても、GPSショットトラッカーアプリなどを使って自分のショットごとの残り距離を記録することで、簡易的なStrokes Gained分析ができるサービスも増えています。
- パッティング練習は重要ではないということですか?
- そうではありません。Broadieの分析は「スコア差のうちパッティングが説明する割合」についての相対的な指摘であり、パッティング自体の重要性を否定するものではありません。ロングゲームの伸びしろがより大きい傾向があるという統計的な示唆です。
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