戦略と統計の原理/原理解説
なぜ「パット数」では実力を測れないのか——Strokes Gainedという発明
「ドライブは魅せる、パットは金になる」という格言は、統計的には裏付けが弱いとされている。Mark Broadieが確立したStrokes Gainedという指標が、なぜ従来のパット数統計より優れているのか、その原理を解説する。
「パット数」という指標の弱点
ゴルフのスコアを統計的に語るとき、長らく「1ラウンドあたりのパット数」が実力の指標として使われてきた。しかしこの指標には構造的な弱点がある。パット数は、その前のアプローチショットでどれだけカップに近づけていたかに強く左右されるため、パッティング技術そのものを単独で測ることができない。良いアプローチでカップに近づけていれば、パットの技量に関わらず少ないパット数で済んでしまう——この交絡(他の要素の影響)が、従来指標の精度を大きく損なっていた。
Mark Broadieが確立したStrokes Gained
この問題を解決したのが、コロンビア大学ビジネススクール教授Mark Broadieが2000年代初頭に確立したStrokes Gainedという指標である。PGAツアーのShotLinkデータ(数十万〜数百万ショット規模)を分析し、あるショットの前後で「その地点から平均的なプレーヤーがホールアウトするまでに要すると期待される打数(ベンチマーク)」を比較することで、実際のショットがどれだけ得をもたらしたかを数値化する。計算式は概ね「打つ前の期待打数-打った後の期待打数-1打」で表される。各ショットを「同一状況からの平均的な結果」との差分で評価するため、ショットごとの純粋な技術的貢献度を分離できるのが最大の利点である。この指標は2014年出版の著書『Every Shot Counts』で広く一般に紹介され、PGAツアーは2011年に公式採用したとされる。
パットが説明するスコア差はわずか15%
Broadieの分析では、トップ10のプレーヤーと平均的なPGAツアー選手のスコア差のうち、パッティングが説明するのはわずか15%であり、100ヤード以遠のロングゲームの方が差を生んでいると主張されている。これは「ドライブは魅せる、パットは金になる(Drive for show, putt for dough)」という伝統的な格言に対する統計的な反証として語られることが多い。ただし、この「15%」という数値はBroadie自身の分析結果として複数の二次ソースで広く引用されているものの、原著の該当箇所を直接確認するには至っていない点は付記しておきたい。アマチュアゴルファーがスコアアップを狙う際も、パット数だけでなく、アプローチやセカンドショットの精度にどれだけの伸びしろがあるかを、Strokes Gainedの発想——「その状況からの期待打数」との比較——で捉え直すことが、練習の優先順位を決めるうえで有効な原理になる。
よくある質問
- アマチュアでもStrokes Gainedを計測できますか?
- PGAツアーのような精密なShotLinkデータがなくても、GPSショットトラッカーアプリなどを使って自分のショットごとの残り距離を記録することで、簡易的なStrokes Gained分析ができるサービスも増えています。
- パッティング練習は重要ではないということですか?
- そうではありません。Broadieの分析は「スコア差のうちパッティングが説明する割合」についての相対的な指摘であり、パッティング自体の重要性を否定するものではありません。ロングゲームの伸びしろがより大きい傾向があるという統計的な示唆です。