原理原則ゴルフ

戦略と統計の原理原理解説

なぜティーショットはピンではなくフェアウェイ中央を狙うべきなのか——期待値思考の原理

腕前に自信のあるゴルファーほど、ピンを直接狙いたくなる。しかしショットには必ず「散布(ばらつき)」があるという前提に立てば、フェアウェイやグリーンの中央を狙う方が平均的には得をする場面が多いという、期待値思考の原理が見えてくる。

監修・執筆:原理原則ゴルフ編集部編集部

「狙った通りに打てるショット」は存在しない

どれほど技術の高いゴルファーであっても、同じ番手・同じスイングで打ったショットが毎回まったく同じ場所に落ちることはない。実際には、ある目標に向かって打ったショットの結果は、目標を中心とした散布(ディスパージョン)——楕円状に広がる着弾範囲——として捉えることができる。この散布の大きさはゴルファーの技量によって異なるが、ゼロになることは決してない。ショットの狙いどころ(エイムポイント)を考えるという行為は、この「必ず外れる幅がある」という前提のもとで、外れた場合にどれだけ損をするかまで含めて狙いを決める作業だといえる。

ピンを狙うことの「隠れたコスト」

この散布の考え方を踏まえると、バンカーや池のすぐそばに切られたピン(いわゆる「タックされたピン」)を直接狙うことの危うさが見えてくる。ピンにぴったり寄せられれば大きなリターン(バーディーチャンス)があるが、散布パターンの一部がハザードにかかってしまえば、パーどころかダブルボギー以上の大叩きにつながるリスクがある。一方、グリーンやフェアウェイの中央——ハザードから距離を取った、安全な範囲——を狙えば、最良の結果(ピンにぴったり)を逃す代わりに、最悪の結果(ハザード直行)の確率も大きく減らせる。狙いどころを決めるとは、この「取り逃す上振れ」と「避けられる下振れ」を天秤にかけ、複数回のショットを通じた平均的な収支——期待値——が最も良くなる地点を選ぶ作業に他ならない。

データが後押しした「守りの狙い方」

こうした期待値に基づく狙いどころの選び方は、2010年代以降、PGAツアーのShotLinkデータを用いた統計分析の広がりとともに、ゴルフ戦略論の主流になっていったとされる。コロンビア大学教授Mark Broadieが確立したStrokes Gainedの考え方を土台に、アプローチショットやティーショットの狙いどころそのものを、感覚ではなく期待打数の計算に基づいて決めようとするアプローチが、ツアーのキャディやコーチの間で広がっていった。この文脈でしばしば言及される人物に、統計的に最適な狙いどころを導き出す戦略システム「DECADE」を提唱したScott Fawcettがいる。彼のアプローチは「大叩きを避けること」を最優先に置き、ピンの位置に関わらず、ハザードから十分な距離を確保した地点を基本の狙いどころとする考え方を核としているとされる。

アマチュアゴルファーへの示唆

この原理をアマチュアのラウンドに当てはめると、「攻めるべき場面」と「守るべき場面」の見分け方が見えてくる。散布パターンが大きい(技量的にばらつきが出やすい)ゴルファーほど、ピンを直接狙うことで得られる期待値上のメリットは小さくなり、逆に大叩きのリスクは大きくなる傾向がある。フェアウェイ中央やグリーン中央を基本の狙いどころとし、ピンが有利な位置にある場合に限ってピンを狙う——という判断の切り替えこそが、期待値思考に基づいたコースマネジメントの原理である。

よくある質問

ピンを狙ってはいけないということですか?
そうではありません。ピンの位置や周囲のハザードの配置によっては、ピンを直接狙う方が期待値上有利な場合もあります。原理は「常にピンを避けるべき」ではなく、自分の散布パターンとハザードの配置を踏まえて、期待値が最も良くなる地点を選ぶという考え方です。
技量が高いプロほどピンを狙うのですか?
一般的には、散布パターンが小さい(技量が高くばらつきが少ない)プレーヤーほど、ピンに寄せることで得られる期待値上のメリットがリスクを上回りやすくなる傾向があるとされています。ただし、そのプロであっても、危険なハザードのすぐそばに切られたピンは直接狙わない判断をすることが少なくありません。