戦略と統計の原理/原理解説
プロはバーディーパットを外しやすいのか——「パーを守る」損失回避を検証した論文を読む
PGAツアー約250万本のパットを分析したPope & Schweitzer(2011)では、同じ距離ならバーディーパットはパーパットより入りにくかった。差は2〜4ポイント程度。損失回避という解釈の中身、論文が検討した別の説明、まだ割れている点を、本文を読んで整理する。
PGAツアーの選手は、同じ距離なら、バーディーを狙うパットよりパーを守るパットのほうが、統計上わずかに多く入れている。Devin PopeとMaurice Schweitzerが2011年にAmerican Economic Reviewに発表した論文「Is Tiger Woods Loss Averse?」は、約250万本のパットを使ってこの差を示し、行動経済学の「損失回避」で説明した。本稿は、この論文の本文を読み、確認できた数値と、著者らが検討した別の説明を整理する。論文が示したのは「入る割合の差」であり、その原因は著者の解釈である。この区別を保って書く。
要約
- 論文は、2004〜2009年のPGAツアー239大会、421選手、2,525,161本のパットを分析した(査読論文)。同じ距離なら、バーディーパットはパーパットより入りにくい。
- 差の大きさは、推定方法と統制変数で変わる。距離のみを統制した基本の推定で約3.6ポイント、グリーン上の位置や先に打つパットの数などを統制した推定で約2〜3ポイントである。
- 差は第1ラウンドで3.8ポイント、第4ラウンドで2.1ポイントと小さくなるが、消えない。著者らは、この変化を「機械的な差ではない」根拠の1つと位置づけている。
- 「パーを守ろうとして集中するから」という解釈は著者の仮説で、集中や努力の量は測られていない。外れた場合のパットの強さ(短く止まりやすい)という副次的な結果は、この解釈と整合的とされる。
- 本メディアの試算では、1大会45.1本のバーディーパットの差が、仮定のもとで約1〜1.7打に相当する。ただし、著者ら自身が「全パットを同じ精度で打てるとは限らない」と注意している。
1. どんな研究か
データは、PGAツアーがレーザーで測定したパットの記録である。ボールの最初と最後の位置が1インチ未満の精度で記録されている。対象は2004〜2009年の239大会で、パットを1,000本以上打った421選手に限っている(計算量の制約による)。パットの47.0%がパー、39.8%がバーディー、1.3%がイーグル、10.2%がボギー、1.7%がダブルボギーを狙ったものだった。距離の平均は136.3インチ(約3.5m)である。
研究の問いは単純である。ゴルフの報酬は大会全体(72ホール)のストローク数で決まるので、各ホールのパーという基準は、本来は成績に関係ない。それでも選手が「パー」を基準点にしているなら、パーを守るパットとバーディーを狙うパットで、結果が違うはずだ、と著者らは考えた。詳しいスコアの測り方はパット数と実力の関係の記事でも扱っている。
2. 損失回避とは何か
損失回避は、Kahneman and Tversky(1979)のプロスペクト理論の中核にある考え方で、同じ大きさの得と損を比べると、損のほうを大きく感じる傾向を指す。「基準点」を境に、価値の変化の傾きが損の側で急になる(図1)。論文は、各ホールのパーを基準点とし、選手が1ホールごとに結果を切り分けて評価している(論文のいう narrow bracketing)という前提を置く。
この前提から、論文は3つの予測を立てた。(1) パー・ボギー・ダブルボギーのパットは、バーディー・イーグルのパットより入りやすい。(2) イーグルパットはバーディーパットより、ボギーパットはダブルボギーパットより、さらに入りにくくなる側に傾く(「感じ方の逓減」)。(3) バーディー側では、リスクを避けて短めに打つ。
3. 何が見つかったか
| 内容 | 論文の数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 距離のみ統制(ロジット、限界効果) | バーディー・イーグルのパットは、パー・ボギー・ダブルボギーより2.0ポイント入りにくい(t=43.2) | Table 2 |
| 距離のみ統制(線形確率モデル) | バーディーは約3.6ポイント、イーグルは約4.0ポイント入りにくい | Table 3 列1 |
| 選手ごとの違い、ホールごとの違い、グリーン上の位置などを統制 | バーディーで約2.6〜3.0ポイント | Table 3 列3〜8 |
| 同一ホール・同一ラウンドで、1インチ以内の同じ位置から打った組(2,828組) | バーディー83.5%、パー88.0%(p<0.001) | Table 4。マッチング距離を24インチまで広げると差は1.5〜3.1ポイント |
| ボギーパット | パーより入りやすい(基本の推定で約0.4〜0.9ポイント) | 著者は、感じ方の逓減の予測とは合わないと書く |
以上の数値は、いずれも論文の結果である。統制変数を増やすと差は小さくなるが、消えない。たとえば、すでにグリーン上でパットを打った人数(先に打った本人と同伴者)を統制すると、バーディーとイーグルの推定値は20〜30%小さくなった。2打目以降のパットは、グリーンを読む情報が増えるので入りやすい、と著者は解釈している(ただし、3パットを避けたい気持ちの影響を分けられない、とも注記している)。
ラウンドが進むと差は縮む
差はラウンドごとに変わる。全選手の推定では、バーディーパットが入らない割合は、第1ラウンドで3.8ポイント、第4ラウンドで2.1ポイントだった。予選落ちで選手が入れ替わる影響を除くため、4ラウンド全部を戦った選手に限っても、差はおよそ半分に縮んだ。
著者らは、これを「パーという基準が最初は目立つが、後半は他の選手のスコアなど別の基準が目立つため」と解釈する。ただし、これも解釈である。論文が確かめたのは、差が一定ではなく、グリーンの難しさや位置関係では説明しにくい形で変化した、という点である。
4. 別の説明はどこまで除けたか
バーディーパットは、パーパットと同じ条件ではない。著者らは、次のような別の説明を検討している。
- 選手の違い: 選手ごとの固定効果を入れても、結果はほぼ変わらない。
- 学習: パーパットは2打目に打つことが多く、グリーンの情報が増える。これは差の一部を説明するが、統制後も差は残る。アプローチが長い(50ヤード超、100ヤード超)場合に限ると差は0.6〜0.8ポイントに縮む。著者は、学習の影響・データのばらつき・期待の違い(第6章)のどれによるかを分けられないと書いている。
- 位置と順位: ホールを4〜16領域に分けても、「入れたときの通算スコア」が同じ者どうしで比べても、差は残った(後者で約3.0ポイント)。
- 過信・緊張: 良いショットのあとに悪くなる負の相関は見つからず(弱い正の相関)、短く打つ傾向やラウンドでの縮小も緊張では説明しにくい、と著者は論じる。
著者ら自身が認める限界もある。パットに至る過程(どんな第2打だったか)全体は統制できない、と書かれている。この種の観察データの分析は、因果の完全な証明にはならない。
5. 「守りのパット」は本当に短くなるのか
プロスペクト理論は、基準点より良い側(利得)ではリスクを避け、悪い側(損失)ではリスクを取りやすい、と予測する。パットで「リスクを避ける」とは、入らなくても返しが易しくなるよう、短めに打つことだ。論文の結果は次のとおりである。
- 外れた場合に限ると、バーディーパットは同じ距離のパーパットより平均0.19インチ、イーグルパットは0.80インチ弱く打たれていた。
- ホールの手前で止まる割合は、バーディーでパーより0.3ポイント、イーグルで1.3ポイント高かった。外れたパットが270インチ超(約6.9m超)の長い距離に限ると、バーディーで1.9ポイント高かった。
- この傾向は、200インチ(約5.1m)未満の短いパットでは確認されなかった(脚注)。
ただし、論文はこれが得になるとは言っていない。外れたあとの次のパットが入る確率の改善は約0.1ポイントで、有意性もぎりぎりであり、最初のパットが入る確率の低下を埋めない。さらに、バーディーパットは左右のミスも大きかった。したがって、バーディーパットの入りにくさは、短く打つことだけでは説明できず、左右のミスの増加も含まれる、と論文は述べている。
6. 基準点は「パー」なのか、「予想スコア」なのか
著者らは、基準点がパーではなく、選手が予想するスコアだという考え方(Kőszegi and Rabin 2006)も検証した。ホールの難しさを、全選手の平均スコアで5段階に分けると、最も易しい群が平均でパーより0.30打良く、最も難しい群が0.33打悪かった。
- 平均スコアがパーのホール: バーディーパットはパーパットより2.9ポイント入りにくい。
- 難しいホール(平均がパーより約0.3打悪い): 差は2.3ポイントに縮み、ボギーパットがパーより入りやすくなる傾向が強まった。
- 易しいホール(約0.3打良い): 差は縮まなかった。
つまり、予想スコアが基準点だという予測とは、一部しか合っていない。著者自身も「結果は一様には支持しない」と書き、イーグルパットのパターンは予測と合わないとしている。基準点が何かは、この論文でも決着していない。
選手ごとのばらつきも大きく、421人のうち94%の選手で差の推定値は負(バーディーが入りにくい側)だった。一方、2007年の世界ランキングと差の大きさには、有意な関係がなかった(p=0.90)。つまり、ランキング上位だから差が小さい、とは言えない。論文は、タイガー・ウッズを含む上位選手でも、前半のラウンドで同様の傾向があるとする。なお、ウッズ個人の係数の数値は、本文から確認できなかった。ウッズの2007年の発言として、論文は「大きなパーパットを入れることのほうが、バーディーパットを入れるより重要だと思う。1打落としたくない」という趣旨の言葉を引いている。これは本人発言の引用で、効果の証拠ではなく、著者が補足的に挙げた逸話である。
7. この差は何打ぶんか(本メディアの試算)
論文は、バーディーパットを同じ距離のパーパット並みに入れられれば、1大会(4ラウンド完走)のスコアが「1打より多く」改善すると述べている。完走した選手は1大会に平均45.1本のバーディーパットを打つ。以下は、本メディアが仮定を置いた試算である。「バーディーパットが1本余計に入れば、その分だけちょうど1打減る」と仮定する(論文の枠組みも、外した場合は次で入る前提を置く)。
| 差の大きさ(ポイント) | 45.1本あたりの改善(打) | 根拠にした係数 |
|---|---|---|
| 2.1 | 約0.95 | Table 5 の第4ラウンド |
| 2.8 | 約1.26 | Table 3 列5〜7 |
| 3.6 | 約1.62 | Table 3 列1 |
| 3.8 | 約1.71 | Table 5 の第1ラウンド |
1打分に達する境目は、差が約2.2ポイント(1÷45.1)である。論文の「1打より多く」は、論文が選んだ最も保守的な推定値に基づく、とされる。どの推定値かは本文から特定できなかった。
論文はさらに、2007年の上位20選手が1大会あたり1打良かった場合の賞金の増加を示している。平均で約64万ドル(17.6%)、ウッズは約94.6万ドル(8.7%)である。これは著者らによる仮想の計算で、他の選手のスコアが変わらないという前提がある。著者らは、集中力や努力は有限かもしれず、全パットを同じ精度で打てるとは限らない、と注意している。
この差が大きいのかを実感するため、もう1つ試算する。自分のパットの記録から、同じ差を検出するのに必要な本数である。以下は、ある一定の仮定(パーの成功率が80%、バーディーが3ポイント低い。有意水準5%・検出力80%の両側検定。各パットは独立で、正規近似を使う)での計算である。結果は各群で約2,900本で、パーの成功率を90%、差を2ポイントとすると約3,800本になる。1人のゴルファーが記録できる本数ではない。本稿が確認した限り、アマチュアのパットで同じ差が出るかを調べた査読研究は、確認できていない。
8. この研究から言えること、言えないこと
- 言えること: PGAツアーのデータで、同じ距離なら、バーディーを狙うパットはパーを守るパットより入りにくい。差は2〜4ポイント程度で、統制を重ねても残る。
- 割れていること: 差の原因が損失回避かどうか。著者は損失回避と解釈するが、基準点が「パー」か「予想スコア」かは決着していない。ホールの前後の経過を統制しきれない点も著者が認める。Stone and Arkes(2016、Journal of Sports Economics)は、参照点とモメンタム(調子の波)が同時に働くことを論じている(要旨のみ確認)。Elmore and Urbaczewski(2021、同誌)は、同じホールがパー5からパー4に変更された例を使い、パーの設定そのものがプレーに影響するという結果を報告している(要旨のみ確認)。
- 言えないこと: 特定の練習法やメンタルの方法で、この差が縮むという証拠は、本稿では確認できていない。アマチュアにこの差があるかも未確認である。
この研究が示すのは「統計上の差」と、その解釈が割れているという点までである。グリーンの傾斜の読みという別の誤差要因は、AimPointの記事で扱っている。大叩きの損失の大きさについては、ダブルボギーを避けることの価値の記事も参照されたい。
本稿で確認できなかったこと
- タイガー・ウッズ個人のパー・バーディー差の数値(本文では図6で全選手の分布が示されるのみで、個人の値は読み取れなかった)。
- 論文が「最も保守的な推定」とした具体的な係数。
- 論文のWeb Appendix(ロジットの分位別係数など)。
- アマチュアのパットでこの差が出るかを検証した査読研究。
- Stone and Arkes(2016)とElmore and Urbaczewski(2021)の本文。本稿は要旨のみ確認した。なお、2026年にBehavioral Sciences誌に「Loss Aversion and Learning in Professional Golf Putting」という題の論文が出ているとの検索結果があったが、掲載ページが開けず(403)、内容は確認していない。
- 論文が使うデータの利用条件(PGA TOURのShotLink)。謝辞に記載があるのみ。
参考文献・出典
- Pope DG, Schweitzer ME. Is Tiger Woods Loss Averse? Persistent Bias in the Face of Experience, Competition, and High Stakes. American Economic Review 101(1):129-157 (2011). 論文ページ: https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257%2Faer.101.1.129。本文の確認に使ったPDF: http://media.clemson.edu/economics/gated/data/golf/Is%20Tiger%20Woods%20loss%20averse%20-%20AER%202011.pdf
- Stone DF, Arkes J. Reference Points, Prospect Theory, and Momentum on the PGA Tour. Journal of Sports Economics 17(5):453-482 (2016). 要旨ページ: https://ideas.repec.org/a/sae/jospec/v17y2016i5p453-482.html
- Elmore R, Urbaczewski A. Loss Aversion in Professional Golf. Journal of Sports Economics 22(2):202-217 (2021). 要旨ページ: https://ideas.repec.org/a/sae/jospec/v22y2021i2p202-217.html
- Kahneman D, Tversky A. Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica 47(2):263-291 (1979). 本稿は、Pope & Schweitzer論文の記述を通じて参照した(原典は未確認)。
- Kőszegi B, Rabin M. A Model of Reference-Dependent Preferences. Quarterly Journal of Economics 121(4):1133-1165 (2006). 同上。
- 本メディア「なぜ「パット数」では実力を測れないのか」「なぜ「大叩き」を避けることがスコアを縮めるのか」「AimPointは何を測り、何が検証されているのか」。
第3章と第7章の表のうち「45.1本あたりの改善」と、必要なパット本数は、本メディアが仮定を置いて計算した試算で、出典のある研究結果ではない。第3章の表の数値と図2は、論文の係数による。図1は概念図である。
よくある質問
- プロはバーディーパットよりパーパットを真剣に打っているのですか?
- 論文が示したのは、同じ距離でパーパットのほうが入る割合が高いという統計上の差(約2〜4ポイント)です。真剣さや集中の量は測られておらず、損失回避による「努力の違い」は著者の解釈です。
- この差は何打に相当しますか?
- 論文は、1大会あたり1打より多い改善に相当すると述べています。本メディアの試算では、45.1本のバーディーパットと差2.1〜3.8ポイントから約0.95〜1.7打です。1本入れば1打減るという仮定を置いた試算で、研究結果ではありません。
- 上位選手ほど、この差は小さいのですか?
- 論文では、2007年の世界ランキングと差の大きさに有意な関係はありませんでした(p=0.90)。421人のうち94%の選手で、バーディーのほうが入りにくい側の推定値でした。
- アマチュアにも当てはまりますか?
- この論文はPGAツアーのデータのみで、アマチュアは対象外です。アマチュアで同じ差が出るかを調べた査読研究は、本稿では確認できていません。