クラブの原理/原理解説
スマッシュファクターはなぜ1.5前後で頭打ちに見えるのか——運動量保存と反発係数(COR)から読む
スマッシュファクターは、ヘッドとボールの二体衝突で、運動量保存と反発係数(COR)から (1+e)/(1+m/M) と書ける。仮定を置いた試算で1.49前後になる理由を確かめ、規則上のCT・COR上限について、確認できた資料とできなかった資料を分けて整理する。
弾道計測器の画面に出る「スマッシュファクター」(ボール初速÷ヘッドスピード)は、ドライバーでおおむね1.5前後より上には伸びにくい指標として語られる。この数字の背景には、衝突の物理(運動量保存と反発係数)と、用具規則の上限という2つの話がある。本稿は、二体衝突のモデルを自分で計算して数字の意味を確かめ、規則上のCOR上限について、確認できた資料と確認できなかった資料を分けて書く。スマッシュファクターそのものの解説は既存記事、ヘッド体積の規則は別の記事を参照。
要約
- 質量Mのヘッドが速度Vで、静止した質量mのボールに正面衝突すると、運動量保存と反発係数e(衝突後の離れる速さ÷衝突前の近づく速さ)から、ボール初速は v = V×(1+e)/(1+m/M) と書ける(本メディアの導出。標準的な二体衝突モデル)。
- この式にM=200g、m=45.93g、e=0.83を入れると、スマッシュファクターは約1.49になる(本メディアの試算。仮定は下記)。TrackManのブログに載るPGAツアー平均の1.49とよく近いが、仮定を置いた単純モデルであり、一致をもってモデルの正しさの証明とは言えない。
- 規則上、ドライバーのばね効果は、現在はペンデュラム(振り子)試験の「特性時間(CT)」で測り、上限は239マイクロ秒に試験許容18マイクロ秒を加えた値である(R&Aの解説ページで確認)。以前のCOR表記の0.830は、報道では1998年のUSGAの制限(0.822+許容0.008)として紹介されるが、USGAの一次資料は開けず未確認である。
- eが0.03違うとスマッシュファクターは約0.025違う(試算)。ヘッドスピード100mphなら、ボール初速で約2.5mph差である。
1. 運動量保存と反発係数から初速を出す
反発係数(COR、Coefficient of Restitution)は、2物体が衝突したとき、離れる相対速度を近づく相対速度で割った値である。完全に弾むなら1、まったく跳ね返らなければ0になる。ヘッド質量をM、ボール質量をm、衝突前のヘッド速度をV(ボールは静止)、衝突後のヘッド速度をV'、ボール速度をvとすると、次の2式が成り立つ。
- 運動量保存: M·V = M·V' + m·v
- 反発係数の定義: e = (v − V') / V
この2式からV'を消すと、v = V×(1+e)/(1+m/M) が得られる。したがってスマッシュファクターは (1+e)/(1+m/M) になり、ヘッド速度には依存しない。つまりこの単純モデルでは、ヘッドスピードを上げても比は変わらず、変えられるのはeとm/Mだけである。ヘッドが重いほど、またeが大きいほど値は上がる。
これは正面衝突で、ボールの回転、ロフトによる斜め衝突、シャフトや手の影響、芯を外した場合のねじれ(ギア効果、詳しくは別記事)を含まない。また、実際の衝突でヘッドとして効く質量(有効質量)は物理的な質量より小さいとされ、ここで置く200gはその代わりの仮定値である。
2. 数値で確かめる
ボール質量は、規則上の上限である45.93g(1.620オンス)を使った(この数値は検索結果の要約で確認したもので、公式ページの本文は開けなかった)。ヘッド質量は190g・200g・210gの3通りを置き、eを0.80・0.83・0.86として、Pythonで計算した。
| ヘッド質量M | e=0.80 | e=0.83 | e=0.86 |
|---|---|---|---|
| 190g | 1.450 | 1.474 | 1.498 |
| 200g | 1.464 | 1.488 | 1.513 |
| 210g | 1.477 | 1.502 | 1.526 |
読み取れることは3つある。第一に、e=0.83・M=200gでは1.488となり、TrackManのブログに載るPGAツアー選手のドライバー平均1.49(メーカーによる公表値)と近い。ただし図の仮定は大づかみで、M=190gから210gの違いだけで1.474〜1.502まで動く。第二に、eが0.03動くとスマッシュファクターは約0.025動く。ヘッドスピード100mphなら初速で約2.5mphであり、スマッシュファクターの小数第2位は、わずかな反発の差を映す。第三に、この式で1.50に届くには、M=200gならeが約0.84必要になる(試算)。逆にいえば、規則が反発を抑えている以上、ヘッド質量や衝突効率の工夫で上積みできる幅は小さく、1.5前後が「頭打ち」に見える理由を、この単純モデルは説明できる。ただし、実測の最大値がモデルより高い例が存在するかどうかは今回確認していない。
TrackManのブログは、同じヘッドスピードでスマッシュファクターが違えば飛距離も違う例を示しているが、この記事では飛距離(ヤード)への換算は行わない。弾道には打ち出し角とスピン量が絡み、単純な換算式は置けないためである。
3. 規則上の「反発」の上限
R&Aの解説ページ「Spring Effect and Dynamic Properties」によれば、ドライバーなどのヘッドのばね効果は、用具規則(Rules of Golf)の付属規則II・4cに基づき、ペンデュラム試験の特性時間(CT)で評価される。CTは、振り子の鋼球がフェースに当たっている時間をマイクロ秒で測ったもので、フェースがたわむほど長くなる。上限は、インパクトエリア内で239マイクロ秒に18マイクロ秒の試験許容を加えた値、エリア外で257マイクロ秒に18マイクロ秒の許容を加えた値と記載されている。同ページには、2015年5月8日の提案、2016年1月21日の通知、2016年3月1日の発効という経緯も載っており、ロフト35度を超えるクラブは試験の対象外といった分類もある。
CT導入の経緯について、Golf Business Newsの記事(R&Aが新しい試験を紹介した報道)は、ペンデュラム試験が2004年1月1日に始まり、2004〜2007年はエリート競技のみ、2008年1月1日からすべての競技とレクリエーションのゴルフに適用されたと伝えている。ロフト15度以下のドライビングクラブが対象である。その前のCOR試験については、報道(GolfMagic)が、USGAが1998年11月に0.830のCOR制限を課し、R&Aは当初これを採用せず、2003年に世界共通の0.860、2008年1月1日以降は0.830超を禁止する段階的な統一が決まったと伝えている。報道の別の記述では、1998年のUSGAの制限は0.822に試験許容0.008を加えた0.830だったとされるが、USGAの原文(公式PDF)は開けず、数値の定義を一次資料で確かめていない。
COR(空気砲でボールを撃ち、反射の速さを測る方式)とCT(ペンデュラム)は別の試験で、CTはCORの近似として語られる(Golf.comの解説)。両者を1対1で換算する式を、今回は確認できていない。つまり「COR 0.830」という数字は、規則の現行の文言ではなく、CT導入前の制限値の呼び名として使われ続けている面がある、という整理が妥当だが、これも一次資料の裏付けは得られていない。
なお、ボール側にも別の規則上の天井があり、ボールの初速には上限(250フィート毎秒、許容2%)が設けられている。この数値は検索結果の要約で確認したにとどまる。ヘッド側のCT上限とは別の規制で、両方が重なって初速の天井を作る。
4. 結論が割れている/言えないこと
スマッシュファクターの天井が、規則上のCORだけで決まるのか、衝突の物理(質量比と有効質量)でも決まるのかは、この単純モデルだけでは切り分けられない。式から言えるのは、eと質量比を固定すれば比が決まるという構造までである。また、ツアー平均1.49がモデルの1.488に近いのは、仮定の置き方次第で動く範囲内の一致であり、「プロはすでに規則の上限に達している」という断定の根拠にはしない。計測器による値のずれは別記事で扱っている。同様の論点はスマッシュファクターの上限の記事、COR規制の記事にもあり、そこに書かれた速度依存の数値(例: 90mphで0.845前後)は、本稿では一次資料を確認できていない。
本稿で確認できなかったこと
- USGAの一次資料(Procedure for Measuring the Flexibility of a Golf Clubhead、2002年の最終規則通知、2003年のペンデュラム通知、Equipment Rulesの付属規則III、Initial Velocity Test Procedure)は、いずれもサイトから403で開けず、本文を確認できなかった。CT上限の数値はR&Aの解説ページで確認した。
- COR 0.830(0.822+許容0.008)の定義と1998年のUSGAの制限は、報道(GolfMagic)での確認にとどまり、一次資料では未確認。
- ボール質量の上限45.93gと、初速上限250フィート毎秒(許容2%)は、検索結果の要約での確認で、規則本文は開けなかった。
- CTからCOR(またはスマッシュファクター)への換算式、COR試験における「e」の厳密な定義(ヘッドの扱い)、試験速度。
- COR・CTの速度依存性の具体的な数値。
- Penner(2003)の論文本文(式や数値)。メタデータのみ確認。
- ツアー選手の実測最大値がモデルを上回る例の有無。
参考文献・出典
- R&A「Spring Effect and Dynamic Properties」(Rules of Golf 付属規則II 4c、CT上限239μs+18μs、2016年の解釈発効の経緯)。https://www.randa.org/en/articles/spring-effect-and-dynamic-properties(公式規則の解説ページ)
- Golf Business News「R&A introduce new test for 'spring-like' effect」(ペンデュラム試験の2004年導入、2008年の全面適用)。https://golfbusinessnews.com/news/management-topics/r-and-a-introduce-new-test-for-spring-like-effect/(報道)
- GolfMagic「'Hot' drivers to be banned by 2008」(1998年のUSGA 0.830制限、2003年0.860、2008年0.830の統一)。https://www.golfmagic.com/news/equipment-news/hot-drivers-to-be-banned-by-2008/2752(報道)
- Golf.com「How do new drivers get approved? Inside the USGA's testing process」(CTがCORの近似であるという説明)。https://golf.com/gear/drivers/usga-driver-testing-process-machine/(報道・解説)
- TrackMan「Smash Factor」(定義、ドライバー目標1.50、PGAツアー平均 ドライバー1.49・6番アイアン1.39)。https://www.trackman.com/blog/golf/smash-factor(計測器メーカーの公表値)
- Penner, A. R. (2003). The physics of golf. Reports on Progress in Physics, 66(2), 131–171. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0034-4885/66/2/202(査読論文。本稿では概要のみ確認し、式は引用していない)
注記: 図1・図2および第2章の数値は、本メディアが仮定(正面衝突、ヘッド質量190〜210g、ボール質量45.93g、ロフト・スピン・有効質量は無視)を置いてPythonで計算した試算であり、出典のある研究結果ではない。実際のスマッシュファクターは、ロフト、芯からのずれ、スピン、計測器によって異なる。
よくある質問
- スマッシュファクターとは何ですか?
- ボール初速をヘッドスピードで割った比です。TrackManはドライバーで1.50近くを目標値として示し、PGAツアー平均はドライバー約1.49と記載しています。
- 規則上のドライバーの反発の上限はどう決まっていますか?
- R&Aの解説ページによれば、ばね効果はペンデュラム試験の特性時間(CT)で評価され、インパクトエリア内の上限は239マイクロ秒に試験許容18マイクロ秒です。COR 0.830という呼び名は1998年のUSGAの制限として報道されますが、USGAの一次資料は開けず未確認です。
- ヘッドスピードを上げるとスマッシュファクターは上がりますか?
- 本稿の単純な二体衝突モデルでは、比は質量比と反発係数だけで決まり、ヘッドスピードには依存しません。実際には芯の外れ方やロフトの影響があり、モデルは近似です。
- ツアー平均1.49は規則の上限に達しているということですか?
- 断定できません。仮定を置いた試算では1.488と近い値になりますが、ヘッド質量の仮定だけで1.47〜1.50の間で動くため、一致は上限到達の証拠にはなりません。