スイングの原理原則/原理解説
ラウンド前のストレッチは静的か動的か——ヘッドスピードと精度を測った研究を読む
直前の静的ストレッチでヘッドスピードや精度が下がるのか。動的ストレッチは飛距離を伸ばすのか。小規模な実験研究の要旨だけを確認できた範囲で整理し、割れている点も示す。
練習場に着いてまず長く体を伸ばす人もいれば、素振りと体の回旋だけで済ませる人もいる。準備運動の違いは、ヘッドスピードや飛距離に出るのか。本稿は、PubMed収載の要旨(Europe PMC経由)を開いて確認できた研究だけを使う。全文は読めていない。いずれも被験者は十数名の小規模な実験で、直後の効果を見たものである。
要約
- 静的ストレッチの直後に、ヘッドスピード・飛距離・精度が下がったとする研究がある(Gergley, 2009)。
- 動的ストレッチは、静的ストレッチや「ストレッチなし」よりヘッドスピードが大きかったとする研究がある(Moran et al., 2009)。
- 一方、3種類の準備運動で差がなかったとする研究もある(Yeemin et al., 2020)。結論は一方向にそろっていない。
- 効果は長期ではなく直後の話で、要旨に被験者数がない研究もある。
1. 静的ストレッチの直後に起きたこと
Gergley(2009, Journal of Strength and Conditioning Research)は、若い男性ゴルファー15名を対象に、静的ストレッチ後の成績を比べた。要旨によると、静的ストレッチ後にヘッドスピードは4.19%、飛距離は5.62%、精度は31.04%、ミートの一貫性は16.34%低下した(いずれもp<0.05)。同じ著者の続報(Gergley, 2010)では、ヘッドスピードの低下は直後に4.92%、15分後に2.59%、30分後に2.19%で、45分後以降は有意でなくなったと要旨にある。
ここから言えるのは、「長い静的ストレッチの直後に打つと、その時点の成績が落ちた」という限られた範囲である。普段の可動域が広がるかどうか、ケガを減らすかどうかは、この研究の測定項目ではない。
2. 動的ストレッチとの比較
Moran et al.(2009, International Journal of Sports Medicine)は、5番アイアンで、動的ストレッチ、静的ストレッチ、ストレッチなしを比べた。要旨では、ヘッドスピードは動的が静的より1.9m/s、なしより1.7m/s大きく、ボール初速は静的比で3.5m/s、なし比で3.3m/s大きかった。スイング軌道は、静的比で0.61度、なし比で0.72度まっすぐに近づいた。被験者数は、取得した要旨には記載がなかった。
Tilley & Macfarlane(2012, International Journal of Sports Physical Therapy)は、エリート男子15名に3種の準備運動(動的のみ、動的+ウェイト、動的+機能的レジスタンス)を別の日に行わせた。要旨では、動的+機能的レジスタンスの併用が、飛距離・ミートの一貫性・スマッシュファクターで有意に良かった(p<0.05)。ヘッドスピードと方向の精度には条件間の差がなかった。具体的な数値は要旨に載っておらず、確認できていない。
3. 差が出なかった研究もある
Yeemin et al.(2020, PLoS One)は、3種類の準備運動の間に有意な群間差が見られなかったと要旨に書いている。条件や被験者の違いがあるため、上の研究と単純に並べて優劣は決められない。つまり、「動的が常に有利」とも「準備運動は無意味」とも、確認できた範囲では言えない。
4. 実際の選び方への示唆
- 直前に長時間、静的に伸ばし続けることは、確認できた研究では成績が落ちた側に出ている。長く伸ばす場合は、打つ前に素振りなど動きのある運動をはさむ、という整理が穏当である。
- 動的ストレッチの内容(種目、回数、時間)は研究ごとに違い、本稿では最適な手順を示せない。
- ヘッドスピードの上がり方と、ボールスピード・ミート率の上がり方は、別に見る必要がある。後者はTilleyの研究でも条件によって違った。
体のひねりと可動域の関係は、捻転差の記事や可動域とスイングスピードの記事で扱っている。
本稿で確認できなかったこと
- 各研究の全文(要旨のみ確認)。Moran et al.(2009)の被験者数、Tilley & Macfarlane(2012)の具体的な数値。
- ストレッチ手順(種目・時間・回数)の最適解を示した研究。
- 準備運動がスコアに与える影響を測った研究。
- 直前の準備運動と長期の可動域向上との関係。
出典
- Gergley JC. Acute effects of passive static stretching during warm-up on driver clubhead speed, distance, accuracy, and consistent ball contact in young male competitive golfers. J Strength Cond Res (2009). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19387392/(要旨を確認)
- Gergley JC. Latent effects of passive static stretching on driver clubhead speed, distance, accuracy, and consistent ball contact in young adult competitive golfers. J Strength Cond Res (2010). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21068685/(要旨を確認)
- Moran KA, McGrath T, Marshall BM, Wallace ES. Dynamic stretching and golf swing performance. Int J Sports Med (2009). https://doi.org/10.1055/s-0028-1103303(要旨を確認)
- Tilley NR, Macfarlane A. Effects of different warm-up programs on golf performance in elite male golfers. Int J Sports Phys Ther (2012). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23936749/(要旨を確認)
- Yeemin W, et al. PLoS One (2020). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33079942/(要旨を確認。題名・条件の詳細は未確認)
よくある質問
- ラウンド前の静的ストレッチはやめた方がよいですか?
- 確認できた研究では、静的ストレッチの直後にヘッドスピードや精度が下がった報告があります(15名の小規模実験)。ただし直後の効果で、時間がたつと薄れたとされます。長く伸ばしたあとに動きのある運動を入れる、という整理が穏当です。
- 動的ストレッチをすれば飛距離は伸びますか?
- 動的ストレッチでヘッドスピードが大きかったとする研究(Moran et al., 2009)がある一方、差がなかったとする研究(Yeemin et al., 2020)もあり、結論は割れています。
- ウェイト付きクラブの素振りも準備運動になりますか?
- Tilleyらの研究では、動的運動にウェイトを足しても、動的のみより優位ではありませんでした。具体的なウェイトの内容は要旨から確認できていません。
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