原理原則ゴルフ

戦略と統計の原理/原理解説

刻むか、狙うか——期待打数で考えるレイアップの損得と、その限界

パー5の2打目で刻むか狙うかを、Broadieの期待打数の表(PGAツアー約800万ショット)で比べる。刻むなら距離よりライが効くこと、狙う場合の損益分岐がペナルティの種類で大きく動くことを、出典と試算を分けて整理する。

監修・執筆:原理原則ゴルフ編集部(編集部)

パー5の2打目で、ピンまで残り240ヤード。池を越えれば2オンの可能性があるが、外せば大きく崩れる。ここで「刻む」か「狙う」かは、ゴルフの戦略の中でも意見が割れやすい論点である。本稿は、これを「期待打数(その地点から平均して何打でホールアウトするか)」で比べる。土台にするのは、Mark Broadieが PGAツアーのショットデータから作った期待打数の表(Broadie の表9)である。同じ土台から狙い点(どこを狙うか)を論じた記事はDECADEの記事で扱っているので、本稿は「ショットの選択(刻む/狙う)」に絞る。パー5での2オン狙いの優劣を二次情報で紹介した短い記事はこちらにある。

要約

  • 期待打数の一次的な表(Broadie, PGAツアー選手、2003〜2010年の約800万ショット)によれば、残り50〜140ヤードでは、距離が10ヤード増えても平均打数は0.03打ほどしか増えないが、フェアウェイからラフに出ると約0.2打増える。刻むときは「何ヤード残すか」より「ライ」が効く。
  • 狙う場合と刻む場合の損益分岐は、「グリーンに乗る確率」と「トラブルに入る確率」と「トラブルの罰の重さ」で決まる。本メディアの試算では、同じ確率でも、池(1罰打で近くにドロップ)とOB(打ち直し)で分岐点が大きく変わる。
  • この表と試算はツアー選手のもので、アマチュアの確率にはそのまま使えない。刻む/狙うの優劣は、一般論として「どちらが正しい」とは言えず、割れている。

1. 期待打数で「刻む」と「狙う」を比べる方法

期待打数とは、ある地点(距離とライ)からホールアウトまでにかかる平均打数である。Broadieは、PGAツアーのショット計測データ(ShotLink)の2003〜2010年分、800万ショット超から、距離とライ(ティー、フェアウェイ、ラフ、バンカー、リカバリー)ごとの平均打数を推定した。この表にはメジャー4大会が含まれない、と論文に明記されている。以下、これを「表9」と呼ぶ。表9の一部を抜き出す。

残り距離(ヤード)フェアウェイラフバンカーリカバリー
302.522.702.663.57
802.752.963.243.84
1002.803.023.233.80
1402.913.153.223.80
2403.453.643.843.97

(リカバリーは、木などで直接ホールを狙えず、短く出すだけの状況を指す。Broadieが自動判定の基準を論文に書いている。)

ショットの選択は、「そのショットを打つ1打」+「結果の地点の期待打数」の平均で比べられる。刻む場合なら、フェアウェイ残り80ヤードに置けた場合は1+2.75=3.75打である。表9のフェアウェイ240ヤードは3.45打なので、完璧な刻みでも、この表の平均より0.30打悪い(本メディアの計算)。ただし、表9の平均には刻んだケースも狙ったケースも混ざっており、選手は条件のよいときに狙う、という偏りもあるはずである。したがって、この差を「狙うほうが0.30打得」と読むことはできない。

2. 刻むなら「距離」より「ライ」

刻んだ先で「何ヤード残すか」は、表9で見るとあまり差がつかない。フェアウェイでは、残り50ヤードが2.66打、140ヤードが2.91打で、90ヤードの差が0.25打、1ヤードあたり約0.003打である(本メディアの計算)。一方、残り80ヤードでフェアウェイとラフの差は0.21打で、距離に換算すると約75ヤード分に当たる(同じく本メディアの計算)。

2.52.72.93.13.3406080100120140160ホールまでの残り距離(ヤード)平均打数FWラフ
図1: 残り距離別の平均打数(Broadie の表9の値をそのまま作図。PGAツアー選手、2003〜2010年、ShotLink)。距離が10ヤード増える影響より、フェアウェイとラフの差(約0.2打)のほうが大きい。

この結果は、「ベストな刻み位置は得意な距離」という通説と矛盾しないが、一次データで裏づけられるのは「ライの差が大きい」という点までである。得意な距離(打数の個人差)は、表9には含まれない。なお、Shot Scope(ゴルフの計測機器・アプリの企業)のブログは、パー5の3打目を175ヤード以内に残す、というしきい値を挙げ、刻みのコストを約0.6打とするが、これは第三者の企業データで、算出方法が確認できなかった。数字としては参考にとどめる。

3. 狙う場合の損益分岐(試算)

以下は、本メディアが仮定を置いて計算した教材用の試算である。実測データではなく、出典のある研究結果ではない。表9の値と、次の仮定を組み合わせた。

  • 状況:パー5、フェアウェイ残り240ヤードからの2打目。グリーンの手前に池がある。
  • 刻む:フェアウェイ残り80ヤードに85%、ラフ残り80ヤードに15%。期待打数は3.78(表9:1+2.75、1+2.96の加重平均)。
  • 狙う(グリーンに乗る):1打+平均2パット=3.00。2パットは、Broadieが「ツアー選手は約33フィートで平均2パット」と書いた値に基づく近似。
  • 狙う(グリーン周りに外す):1+表9のラフ20ヤード(2.59)=3.59。
  • 狙う(トラブル):池なら1打+罰1打+フェアウェイ30ヤードから(2.52)=4.52。OBなら1打+罰1打+元の地点からの打ち直し(3.45)=5.45。

グリーンに乗る確率を30%に固定し、トラブルに入る確率を動かすと、狙う場合の期待打数は図2のように増える。

3.43.63.80%10%20%30%40%50%狙った場合にトラブルへ行く確率期待打数交点 約40%刻む 3.78狙う(グリーン30%)
図2: 狙う場合と刻む場合の期待打数(試算に基づく図。本メディアが仮定を置いて計算。出典のある研究結果ではない)。

池の場合、トラブル確率が約40%を超えるまで、この仮定では狙うほうが期待打数は小さい。グリーンに乗る確率とトラブルの種類を変えると、次のようになる(トラブル確率の損益分岐点)。

グリーンに乗る確率狙う場合の期待打数(トラブル0%)分岐点(池)分岐点(OB)
20%3.47約33%約17%
30%3.41約40%約20%
40%3.35約46%約23%
50%3.29約52%約26%

読み取れることは3つある。第一に、グリーンに乗る確率が高いほど、許容できるトラブル確率が上がる。第二に、同じ設定でも、池とOBでは分岐点が大きく違い、OB相当の罰だと許容できる確率は半分以下になる。第三に、この表の数字は仮定で動くので、「30%までなら狙ってよい」といった数字として引用することはできない。

なお、この試算は期待打数の最小化だけを見ている。大叩きの回避を優先する、という考え方(ダブルボギーを避けると平均スコアが下がる理由)や、散布の大きさを前提とした狙い点の選び方(なぜピンではなく中央を狙うのか)とは、別の観点である。

4. ペナルティの種類で、価値が変わる

上の試算でトラブルの種類で結果が変わったのは、ルール上の処置が違うためである。R&A(ルール17)によれば、ペナルティエリア(池など)に入った場合は、1罰打で、元の場所から打ち直す(ストロークと距離)、ホールとボールが縁を横切った点を結ぶ線上の後方に下がる、赤いペナルティエリアでは縁を横切った点の近く(2クラブレングス以内)にドロップする、のいずれかを選べる。これに対し、ルール18によれば、ボールを紛失した場合やOBの場合は、1罰打で前の位置から打ち直す。

池の場合、ドロップ地点が前進できる場合があるため、試算では「池の手前の30ヤード」にドロップできるとしたが、これはコースの設計に依存する仮定である。Broadie本人も著者サイトのQ&Aで、OBを横の池(lateral hazard)に置き換えると、最適な選手はより大きなリスクを取る、と述べている。

5. アマチュアに当てはめるときの注意

表9はツアー選手の値である。Broadieの論文は、平均ドライブ距離をツアー選手約290ヤード、平均スコア90の選手約210ヤードとしており、飛距離の差は大きい(これによるパー5の2オン確率の差は、本稿では確認できていない)。一方で、表9のラフとの差や距離の効きが、アマチュアでもどの程度成り立つかは、今回確認できていない。Broadieは、アマチュアは100ヤード以遠でもグリーン中央を狙うのが合理的な場合が多いとQ&Aで述べているが、これは狙い点についての発言で、刻む/狙うの結論を示したものではない。

結局、刻む/狙うの優劣は、一般論としては割れている。実際の判断では、①グリーンに乗る見込み、②トラブルの罰の重さ、③刻んだ場合の次のショットの成功率、の3つを、自分の過去のラウンドで見積もる必要がある。

本稿で確認できなかったこと

  • アマチュア(特にハンディキャップ別)の、刻む場合と狙う場合の期待打数の一次データ。
  • Broadieの論文が掲載された学術誌の巻号の確認。入手できたのは「掲載予定稿」(2011年4月版)のPDFで、SSRNのページは開けなかった。
  • 「パー5を狙うと刻むより0.42打少ない」という二次情報の算出元。MyGolfSpyやGolfWRXの記事は、取得を試みたが開けなかった(403)。本稿の数字には使っていない。
  • Shot Scopeの「0.6打」「175ヤード」の算出方法。
  • グリーンオン後の平均パット数を、距離別に網羅した表。2パット=約33フィートの1点のみ使った。
  • 試算の確率(グリーンに乗る確率、トラブル確率)が、実際のどのレベルの選手に相当するか。

参考文献・出典

  1. Broadie M. Assessing Golfer Performance on the PGA TOUR(掲載予定稿、Interfaces掲載。2011年4月版). 表9(平均打数)、第3章(ベンチマーク). https://columbia.edu/~mnb2/broadie/Assets/strokes_gained_pga_broadie_20110408.pdf
  2. Broadie M. Every Shot Counts (Gotham Books, 2014). 著者サイトのQ&A: https://everyshotcounts.com/248-2/
  3. R&A. Rules of Golf, Rule 17 Penalty Areas. https://www.randa.org/en/rog/the-rules-of-golf/rule-17
  4. R&A. Rules of Golf, Rule 18 Stroke-and-Distance Relief; Ball Lost or Out of Bounds; Provisional Ball. https://www.randa.org/en/rog/the-rules-of-golf/rule-18
  5. Shot Scope. Par 5s: Should I go for it in 2 or lay up?(企業ブログ、第三者の二次情報). https://shotscope.com/blog/practice-green/stats-and-data/par-5-go-for-it-in-2-vs-a-lay-up/

第3章・第4章の試算(図2・分岐点の表)は本メディアが仮定を置いて計算した教材用モデルで、出典のある研究結果ではない。表9の値は引用、1ヤードあたりの増加・約75ヤード換算・0.30打の差は表9からの本メディアの計算である。

よくある質問

パー5で刻むのと狙うのは、どちらが期待打数で有利ですか?
一般論としては割れており、結論は出せません。Broadieの表9(ツアー選手)によれば、完璧な刻み(残り80ヤードのフェアウェイ)は3.75打で、フェアウェイ240ヤードの平均3.45打より0.30打悪くなります。ただし平均には刻んだ例も含まれ、選手の選択の偏りもあるため、狙うほうが得とは読めません。
刻むときは何ヤード残すのが良いですか?
Broadieの表9では、残り50〜140ヤードのフェアウェイでは、距離による差は10ヤードあたり0.03打ほどです。一方、フェアウェイとラフの差は約0.2打あります。距離よりライが効くと読めますが、個人の得意な距離は表に含まれません。
池やOBがあるとき、狙う価値はどう変わりますか?
本メディアの試算(出典のある研究結果ではない)では、グリーンに乗る確率が30%の場合、池(1罰打で近くにドロップ)なら約40%のトラブル確率まで狙うほうが期待打数は小さく、OB(打ち直し)では約20%まで下がります。ルール上の処置が違うためです。数字は仮定に依存します。
この表はアマチュアにも使えますか?
そのままは使えません。表9はPGAツアー選手の平均です。Broadieの論文では、平均ドライブ距離がツアー選手約290ヤード、平均スコア90の選手約210ヤードとされています。自分の確率を見積もる枠組みとして使うのが適切です。