クラブの原理/変遷史
スプーン・ブラッシー・クリーク——昔のクラブ名の由来を古書と辞書で確かめる
スプーン、ブラッシー、クリーク、マッシー、ニブリック。旧クラブ名の由来を、1890年代の古書(Park、Hutchinson、Clark)とスコットランド語辞書で確認し、確かな部分、逸話にとどまる部分、語源が未確認の部分を分けて示す。
「スプーン」「ブラッシー」「クリーク」。昔のクラブ名は、ウッドとアイアンの番号が定着する前の呼び名である。由来が説明されることは多いが、確かな出典のあるものは少ない。本稿は、1890年代の古書(Hutchinson 1890、Clark 1893、Park 1896)と辞書(Scottish National Dictionary)を開いて確認できた範囲で、「何がわかっていて、何が語り継がれているだけか」を整理する。現代のクラブ構成の議論は14本制限の記事とロングアイアンの記事を参照されたい。
要約
- Park(1896)は、ブラッシーを「ソールに真鍮板を打ったクラブ」と説明し、Musselburgh の街道に打ち込む人のために考案された、という逸話を書く。ただし考案者は「ある紳士」とあるだけで名前はない[1]。
- スプーンは、「ドライバーと同じヘッドで、面のロフトはブラッシーほど」と Park は書く。名称の由来を直接述べる箇所は、本稿が開いた範囲にはなかった[1]。
- クリークは、スコットランド語で「かぎ」を意味する語として辞書に載る(1703年の用例が最古)。ゴルフクラブへの転用の経緯は辞書からは確認できなかった[2]。
- 番号との対応は資料で食い違う。固定の対応表はなかったと見るのが妥当である[3][4]。
1. 呼び名は「形・素材・用途」で付いた
Park は、当時のセットを「ドライバー、スプーン、ブラッシー・ニブリック、パター、クリーク、アイアン、マッシー、アイアン・ニブリック」などと列挙し、木製クラブは先頭の3本程度が全木製で、鉄製は別枠として説明している[1]。名称は形や素材、使う場面を指していた。
| 呼称 | 確認できた記述 | 確認の度合い |
|---|---|---|
| ブラッシー | ソールが金属板で保護された木製クラブ。金属で覆うクラブを総称して brassie と呼ぶ、と Park は書く。街道に落ちたボールを打つとヘッドが割れるため、真鍮板を付けたとする逸話あり[1] | 特徴は原典で確認。逸話は Park の記述のみで人物不明 |
| スプーン | ヘッドはドライバーと同形で、ロフトはブラッシー並み。長・中・短の区別は柄の長さを指す。バフィー(baffing spoon)は短いスプーンの変形で、シャフトが硬く強いロフトのクラブ[1][5] | 特徴は確認。名前の由来は直接の記述を見つけられず |
| クリーク | アイアンクラブの中でドライバーに相当する、と Park は書く[1]。辞書ではスコットランド語の「かぎ」[2] | 辞書の語義は確認。クラブ名への転用経緯は未確認 |
| マッシー | ニブリックよりロフトが少なく、アイアンよりロフトが大きい中間のクラブ。Park は「比較的新しい」と書く[1] | 特徴は確認。語源は二次情報のみ(仏語 massue=棍棒とされる)[4] |
| ニブリック | バンカーなど難しい場所で使うクラブ[1] | 特徴は確認。語源は二次情報のみ(neb/nib とされる)[4] |
2. ブラッシーの逸話をどう読むか
Park の記述では、Musselburgh Links の南の境界はエディンバラからハディントンへ向かう街道で、ここに打ち込んだボールは、あるがままに打つ決まりだった。舗装された硬い道で木製クラブを使うとヘッドが折れやすく、「ボールが街道へ頻繁に出る紳士」が真鍮の板を思いついた、と続く[1]。
この話は具体的で説得力があるが、本稿が開いた古書の中では Park の記述が唯一の詳細な出典で、考案者の名前も年も示されない。Hutchinson(1890)は別の文脈で、セットの構成や用語を説明しており、ブラッシーの起源について同じ逸話を述べているかどうかは、本稿では確かめていない[5]。したがって「Musselburgh で始まった」は「Park がそう書いた」として扱うのが妥当である。
3. クリークの語源——辞書と解説で割れる
Scottish National Dictionary は cleek を、スコットランド語で「かぎ(hook)」の意味の名詞として載せ、用例を1703年から挙げる[2]。そして、肉を引っ掛ける、あるいは人を捕まえる道具の名として広く使われた語であることがうかがえる。この語がアイアンクラブの呼び名として用いられた過程は、辞書の確認範囲からは分からない。一方、日本ゴルフ協会(JGA)のゴルフペディアは、ゲール語で金属音を表す語に由来するという説明を載せるが、出典が付いておらず、辞書の記載と異なる[3]。本稿は後者を採用しない。
クラブの頭が「かぎ」に似るから、という解釈は筋が通る。ただし、それを書いた同時代の史料は、本稿では見つけられなかった。
4. 番号との対応はなぜ揺れるのか
ドライバー、ブラッシー、スプーンを現在の1番、2番、3番、5番ウッドに当てる説明は多いが、資料によって対応が違う。JGAの解説はブラッシーを2番ウッド、スプーンを3番ウッドとする[3]。Wikipedia の「Obsolete golf clubs」(二次情報)はブラッシーを3番ウッド、スプーンを5番ウッドとする[4]。クラブごとにヘッドや柄の長さ、ロフトが職人の手作りで違っていた時代であり、固定の換算表があったとは考えにくい。番号が定着した経緯は、1930年代初めのスポルディング社のセットが関わるとする二次情報があるが、本稿では原史料を確認していない[4]。
現代のクラブでの位置づけは、フェアウェイウッドとハイブリッドの比較やハイブリッドの起源、アイアンのロフトの変化はストロングロフトの記事が扱う。
本稿で確認できなかったこと
- スプーンの名称の直接の由来。面が反った形(spooned)という Park の語から連想はできるが、名付けの記録は見つけていない。
- ブラッシー考案の逸話の第二の出典と、考案者・年。
- クリークがクラブ名になった経緯。ゲール語起源説の根拠。
- マッシー(仏語 massue 説)とニブリック(neb/nib 説)の語源。Wikipedia に基づく二次情報にとどまる。
- 旧名称と現代の番号の対応。資料間で食い違い、固定の対応表は確認できなかった。
- Hutchinson 1890 と Clark 1893 の各クラブ記述の全文照合。本稿は一部を読んだ範囲にとどまる。
参考文献・出典
- Park, W. Jr. (1896). The Game of Golf, pp. 24-27. https://archive.org/details/gameofgolf00park(OCRテキストで該当箇所を確認)
- Scottish National Dictionary, "cleek, n.1". https://dsl.ac.uk/entry/snd/cleek_n1(語義と用例年を確認)
- 日本ゴルフ協会 ゴルフペディア. https://jga-golfpedia.jp/article/515(出典記載なし)
- Wikipedia "Obsolete golf clubs". https://en.wikipedia.org/wiki/Obsolete_golf_clubs(二次情報)
- Hutchinson, H. G. (ed.) (1890). Golf(Badminton Library). https://archive.org/details/golf00hutcgoog(スプーン・バフィーの記述を確認)
- Clark, R. (ed.) (1893). Golf: A Royal and Ancient Game. https://archive.org/details/golfroyalancient00clar(参照)
よくある質問
- ブラッシーはなぜブラッシーと呼ばれるのですか?
- Parkの1896年の書籍は、ソールを真鍮板で保護した木製クラブで、金属で覆うクラブを総称してbrassieと呼ぶと説明しています。Musselburghの街道に打ち込む人が考案したという逸話も書かれますが、人物名は示されません。
- クリークの語源は何ですか?
- Scottish National Dictionaryは、cleekをスコットランド語の「かぎ」の意味の語として1703年の用例から載せています。クラブ名への転用の経緯は確認できていません。JGAゴルフペディアのゲール語説は出典が付いておらず、本稿は採用していません。
- スプーンやブラッシーは今の何番ウッドですか?
- 資料により異なります。JGAの解説はブラッシーを2番、スプーンを3番ウッドとし、Wikipediaはブラッシーを3番、スプーンを5番ウッドとします。固定の対応表はなかったと見るのが妥当です。
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