戦略と統計の原理/原理解説
ペナルティエリア・OB・紛失球の救済はどう選ぶか——期待打数で比べる規則17と18.2
ペナルティエリアの救済(規則17)とOB・紛失球のストローク・アンド・ディスタンス(規則18.2)を、PGAツアー選手の期待打数の基準値で比べる。背後線上の救済が約1打有利になる条件を、仮定を明記した試算で整理し、確認できなかった点も示す。
ティーショットが池に入った、OBかもしれない、ボールが見つからない。こうした場面で、規則はいくつかの救済を用意している。どれを選んでも罰打はかかるが、罰打の数だけで選ぶと判断を誤ることがある。本稿は、R&Aの規則17(ペナルティエリア)と規則18.2(OB・紛失球)の選択肢を整理し、「期待打数」(ある地点から、平均して何打でホールアウトできるかという数字)の考え方で比べる。期待打数の基準値はMark Broadieの論文で確認できた値だけを使い、そこから先の確率や損得の計算は、仮定を明記した本メディアの試算として区別する。考え方の前提はDECADEの記事と共通で、罰則の歴史はストローク・アンド・ディスタンスの記事とペナルティエリアの記事に書いてある。
要約
- 【公式規則】OB・紛失球は、1罰打を加えて前の打った場所から打つ(ストローク・アンド・ディスタンス、以下S&D)。ペナルティエリアは、そのまま打つか、1罰打で救済を受ける。救済は、元の位置から、背後線上(エリアに入った地点とホールを結ぶ線上の後方)、赤エリアのみ横の2クラブレングス以内、の3つである。
- 【本メディアの試算】PGAツアー選手の基準値を使い、400ヤードのパー4で150ヤード付近の球を救済する例で比べると、ペナルティエリアの背後線上救済は残り3.95打、S&Dは4.99打だった。約1打の差は、元の位置に戻ると「ティーショットをもう一度打つ」分が加わるためである。
- 【本メディアの試算】背後線上の救済が元の位置からのS&Dより有利になるのは、ドロップ地点がホールから約370ヤード以内(ラフなら約330ヤード以内)のとき。ティーショットが短く落ちた場合は差が小さくなる。
- 【公式規則】ローカルルールE-5(採用はコースの判断)があれば、OB・紛失球で2罰打の救済も選べる。試算では、基準値の上では打数がほぼ同じで、主な効果は時間の節約と考えられる。
- どの選択がアマチュアにとって最適かを示す、確認できた研究は見つからなかった。結論が割れているのではなく、データがない、というのが本稿の整理である。
1. 規則が用意している選択肢
以下は、R&Aの規則本文(規則17、規則18)で確認できた内容である。
1-1 OB・紛失球(規則18.2)
ボールを探し始めて3分以内に見つからない、またはボール全体がコースの境界の外にある場合、プレーヤーはS&Dで救済を受ける。罰は1打で、直前の打った場所からプレーを再開する。規則18.1により、S&Dはいつでも選べる。時間を節約するために、見つからないかもしれない球やOBかもしれない球について「暫定球」を打つこともできる(規則18.3)。暫定球は、打つ前に「暫定球」と宣言する必要があり、単に「もう1球打つ」と言うだけでは足りない。原球がコース内で3分以内に見つかれば、暫定球は放棄し、暫定球での打数は数えない。
1-2 ペナルティエリア(規則17)
ペナルティエリアは、ボールがそのエリア内にある場合に、そのまま打つか、1罰打を加えて救済を受けられる。選択肢は次のとおり。
- 元の位置から打つ(S&D)。
- 背後線上の救済。ホールとボールがエリアの縁を横切った地点を結ぶ線上の、エリアの外にドロップする。後方への距離に制限はない。
- 横の救済(赤のペナルティエリアのみ)。縁を横切った地点から2クラブレングス以内で、ホールに近づかない位置にドロップする。
黄色のエリアは最初の2つ、赤のエリアは3つすべてが選べる。規則17.3により、エリア内のボールには、規則17の救済以外(動かせない障害物からの救済や、アンプレヤブルなど)は適用されない。
2. 期待打数の基準値
期待打数の基準値には、Mark Broadieの論文「Assessing Golfer Performance on the PGA TOUR」(2011年4月版、Interfaces掲載予定と記載のあるプレプリント)の付録の表9を使う。同論文によれば、2003〜2010年の800万打超のデータから推定した、PGAツアー選手の平均打数である。以下はその一部である(距離はホールまでのヤード数)。
| 距離(ヤード) | ティー | フェアウェイ | ラフ | リカバリー |
|---|---|---|---|---|
| 100 | 2.92 | 2.80 | 3.02 | 3.23 |
| 140 | 2.97 | 2.91 | 3.15 | 3.22 |
| 160 | 2.99 | 2.98 | 3.23 | 3.28 |
| 200 | 3.12 | 3.19 | 3.42 | 3.55 |
| 300 | 3.71 | 3.78 | 3.90 | 4.04 |
| 400 | 3.99 | 4.11 | 4.30 | 4.69 |
この表の値はプロの平均であり、アマチュアには当てはまらない。同論文は、スコア90のゴルファーのティーからの平均打数を「2.79+0.0066×距離」とするBroadie(2008)の結果を引用しているが、本稿はBroadie(2008)の原典を開けておらず、二次的な引用である。この式で400ヤードを計算すると5.43打で、プロの3.99打より約1.4打多い。アマチュアのフェアウェイやラフからの値は、確認できた範囲では見つからなかった。
3. 試算:同じ場面を、選択肢ごとに比べる
以下は、本メディアが仮定を置いて計算した試算である。出典のある研究結果ではない。
仮定:400ヤードのパー4。ティーショットが、ホールまで残り約150ヤードの地点付近で、ペナルティエリア(またはOB)に入った。比較する指標は「罰打を含む、ホールアウトまでの残りの期待打数」。表9の値を線形補間して、150ヤードのフェアウェイは2.945、ラフは3.19とした。ドロップは、フェアウェイからの基準値が当てはまる位置にできると仮定した(この仮定の影響は後述)。
| 選択肢 | 計算 | 残りの期待打数 |
|---|---|---|
| (基準)同じ距離のフェアウェイにある | 2.945 | 約2.95 |
| 背後線上、フェアウェイ・150ヤード | 1+2.945 | 約3.95 |
| 横の救済(赤)、ラフ・150ヤード | 1+3.19 | 4.19 |
| E-5の2罰打、フェアウェイ・150ヤード | 2+2.945 | 約4.95 |
| 元の位置から(S&D、OBでも同じ) | 1+3.99 | 4.99 |
読み取れるのは3点である。第一に、ペナルティエリアで背後線上に救済できる場合、S&Dより約1打有利になる。これは、元の位置に戻ると、すでに打ったティーショットがなかったことになり、ティーからの期待打数(3.99)を再び払うためである。第二に、OBには背後線上のような選択肢がなく(E-5を除く)、同じ地点付近に落ちても、ペナルティエリアより約1打重い。第三に、赤のエリアの横の救済は、ラフに落ちるなら背後線上の救済(フェアウェイ)より約0.25打不利になる。ただし、これは背後線上のドロップ地点が150ヤードのままの場合の比較で、後方に下がるほど背後線上の値は悪化する(下の損益分岐を参照)。
3-1 損益分岐:どこまで下がるべきか
同じ表9の値から、損益分岐の距離を計算した(線形補間による試算)。
| 比較 | 分岐の目安 | 意味 |
|---|---|---|
| 背後線上(フェアウェイ)対S&D | ホールまで約370ヤード | 400ヤードのホールなら、ティーから約30ヤード進んだ地点以降に入ったときは、背後線上が有利 |
| 背後線上(ラフ)対S&D | ホールまで約330ヤード | ドロップ地点がラフと仮定すると、ティーから約70ヤード以上進んでいれば有利 |
| 横の救済(ラフ、150ヤード)対背後線上(フェアウェイ) | 背後に約50ヤード | 背後に下がる距離が50ヤードより短ければ背後線上(フェアウェイ)が有利、長ければ横が有利 |
| E-5の2罰打(フェアウェイ)対S&D | ホールまで約160ヤード | フェアウェイ基準点がそれより近ければE-5が有利 |
「そのまま打つ」かどうかも同じ考え方で整理できる。背後線上の救済の価値が約3.95打なので、ペナルティエリア内のライから打った場合の期待打数が、これを下回るなら、打つ方が得になる。同じ150ヤードのラフの値(3.19)と比べると、約0.75打までの悪化は許容できる計算である。ただし、エリア内のライごとの期待打数は、確認できた出典がなく、この数字は「許容できる悪化の上限」を示すだけで、実際の判断はライと、プロの基準値からの差次第である。
3-2 暫定球は打数を変えない
暫定球は、打数の損得ではなく時間の節約のための手段である。OB・紛失球になった場合、暫定球は結果としてS&Dで打つ球と同じ位置(ティー)から、同じ罰(1打)で打つことになる。原球が見つかれば暫定球での打数は数えないので、暫定球を打っても罰はない。なお、原球がペナルティエリアにある、またはそこにあると分かっている・ほぼ確実な場合は、暫定球を使わず、ペナルティエリアの救済を受ける。
3-3 E-5はどういう位置づけか
ローカルルールE-5は、R&Aのモデルローカルルール(委員会の手続き 8)に掲載されている。確認できた規定は次のとおり。2罰打で、フェアウェイ基準点(ボール基準点から最も近いフェアウェイの地点で、ボール基準点よりホールに近くない地点)から2クラブレングス以内の、ジェネラルエリアにドロップする。使えるのは、球が見つからない、またはOBであることが分かっている・ほぼ確実なときで、ペナルティエリアにあると分かっている・ほぼ確実な球や、暫定球を打った場合には使えない。採用するかどうかは委員会が決める。
前の表のとおり、基準値の上ではE-5と元の位置から戻るS&Dの打数差は小さい(約160ヤードが分岐)。E-5の主な効果は、打数よりも、戻る時間を省いてプレーを進めることにあると考えられる(本メディアの解釈。目的の公式記述は今回の取得結果では確認できていない)。
4. 試算の限界
- 基準値はPGAツアー選手のものである。アマチュアはティーからの平均打数が大きく、S&Dで払う「ティーからの期待打数」も大きい。ただし、背後線上のドロップ地点から払う分も大きくなるため、どちらが有利かの方向は、アマチュアの値が確認できない限り決められない。
- ドロップ地点がフェアウェイ相当、あるいはラフ相当で、ホールまでの距離がそのまま打数に反映されると仮定した。実際は、ライ、ピンまでの障害物、打ちやすい距離などで変わる。
- 期待打数は平均であり、1回の判断の結果を保証しない。
- この試算は、ペナルティエリアやOBに入る確率そのものを扱っていない。「ここを狙うと何%でOBに行く」という確率は、散布の測定が必要であり、フェアウェイ中央を狙う理由やダブルボギーを避ける理由の記事が扱っている。
本稿で確認できなかったこと
- アマチュアの、フェアウェイ・ラフ・ペナルティエリア内の期待打数の、出典のある値。
- Broadie(2008)の原典と、スコア90のゴルファーの式「2.79+0.0066×距離」の原文(2011年論文による引用のみ確認)。
- Broadie(2011)が、Interfaces誌に最終的に掲載された巻号・ページ(プレプリントに「To appear in Interfaces」とあるのみ)。
- 「ほぼ確実(virtually certain)」の規則上の定義(定義の章は開いていない)。
- USGAのE-5解説ページ(アクセスが403で開けなかった)。E-5の内容はR&Aのページで確認した。
- ペナルティエリア内の各ライからの期待打数。
- 救済の選択と、スコアや勝敗との関係を、アマチュアの大規模データで検証した研究。
参考文献・出典
- R&A. Rules of Golf, Rule 17 Penalty Areas. 【公式規則】 https://www.randa.org/en/rog/the-rules-of-golf/rule-17
- R&A. Rules of Golf, Rule 18 Stroke-and-Distance Relief; Ball Lost or Out of Bounds; Provisional Ball. 【公式規則】 https://www.randa.org/en/rog/the-rules-of-golf/rule-18
- R&A. Committee Procedures, Section 8 Model Local Rules(Model Local Rule E-5). 【公式規則】 https://www.randa.org/en/rog/committee-procedures/8
- Broadie M. Assessing Golfer Performance on the PGA TOUR(2011年4月8日版、プレプリント。Interfaces掲載予定と記載). Columbia University. 【論文】 https://columbia.edu/~mnb2/broadie/Assets/strokes_gained_pga_broadie_20110408.pdf
- Broadie M. Every Shot Counts(2014). 期待打数の考え方の土台とされる書籍。本稿では内容を直接確認していない。
- 本メディア「DECADEは何を定量化しているのか」(期待打数の共通の考え方)。
第3章の数値は、本メディアがBroadie(2011)の基準値(PGAツアー選手)に仮定を置いて計算した教材用の試算で、出典のある研究結果ではない。値は表9を線形補間したもので、小数第3位以下は四捨五入した。
よくある質問
- ペナルティエリアに入ったら、元の位置から打ち直すのと背後線上のどちらが得ですか?
- 本メディアの試算(PGAツアー選手の基準値を使用、出典のある研究結果ではない)では、400ヤードのパー4で背後線上のドロップ地点がホールまで約370ヤード以内なら、背後線上の救済が元の位置から打つより有利でした。アマチュアの基準値は確認できていないため、この結果をそのまま当てはめることはできません。
- OBと見つからない球のペナルティは同じですか?
- 規則18.2では、OBも、3分以内に見つからない球も、1罰打を加えて直前の打った場所から打ちます。ペナルティエリアにあると分かっている、またはほぼ確実な球は、規則17の救済を受けます。
- 赤のペナルティエリアと黄のペナルティエリアの救済の違いは何ですか?
- 規則17によれば、黄のエリアは元の位置から打つか背後線上の救済の2つ、赤のエリアは、これに加えて、縁を横切った地点から2クラブレングス以内の横の救済が選べます。
- ローカルルールE-5とは何ですか?
- R&Aのモデルローカルルールで、OBまたは見つからない球について、2罰打でフェアウェイ基準点付近の救済エリアにドロップできる選択肢です。採用するかどうかは委員会が決めます。ペナルティエリアにあると分かっている球や、暫定球を打った場合には使えません。