弾道の物理/原理解説
なぜ標高の高いコースはボールがよく飛ぶのか——空気密度と抗力の原理
標高の高いコースはボールがよく飛ぶとよく語られる。空気密度が低くなるほど抗力が減るという物理法則から、デンバー近郊Cherry Hills Country Clubの実例まで、標高と飛距離の関係を原理から解説する。
空気抵抗を決める「密度」という変数
物体が空気中を移動する際に受ける空気抵抗(抗力)は、物理学の抗力方程式で説明され、抗力の大きさは速度の2乗に加えて、空気の密度に比例するという関係が知られている。この関係はWikipedia「Drag (physics)」に記載されている基本的な流体力学の法則である。
抗力 = 1/2 × 空気密度 × 速度² × 抗力係数 × 前面投影面積
つまり同じ速度で飛んでいても、空気が薄ければ薄いほど、ボールが受ける抵抗は小さくなる。
標高が上がると空気密度は下がる
空気密度は、標高が高くなるにつれて低下していく。Wikipedia「Density of air」には、空気密度が気圧と同様に標高の上昇とともに低下すると記載されており、気圧そのものも標高に対しておおむね指数関数的に減少していくことが「バロメトリック方程式」として知られている(Wikipedia「Barometric formula」)。対流圏における気圧の減衰スケールはおよそ8.4kmとされる。この関係により、標高の高いコースでは平地のコースに比べて空気密度が低く、ボールが受ける抗力も小さくなる。
揚力も減る、それでも飛距離は伸びる
ここで見落としてはいけないのは、バックスピンによる揚力(マグヌス効果)もまた空気密度に比例する力だという点である。標高が高く空気が薄い環境では、抗力だけでなく揚力も同時に弱まるため、ボールの弾道はやや低く、吹け上がりにくい軌道になる傾向があると考えられる。それでも総合的には抗力の減少による影響の方が勝り、キャリー・トータルとも距離が伸びる方向に働くというのが、この現象の物理的な説明になる。
「コースが短く感じる」という実例
米コロラド州デンバー近郊にあるCherry Hills Country Clubは、平均標高が1,615m(5,300フィート)を超えることから、コースが実際のヤーデージよりも短く感じられるとWikipediaに記載されている。デンバーが「Mile High City(標高1マイルの街)」と呼ばれることも広く知られている通り、この一帯は標高が高く空気の薄い土地であり、ボールがよく飛ぶ土地として語られることが多い。なお、標高何メートルごとに飛距離が何%伸びるかという定量的な目安数値については、本記事執筆時点で確認できる一次資料を見つけられておらず、正確な数値としての紹介は見送っている。
よくある質問
- 標高が高いコースでは、すべてのクラブで同じように飛距離が伸びますか?
- 空気密度の低下は抗力・揚力の両方に影響するため、クラブやスピン量によって影響の度合いは変わり得ると考えられます。一般的には抗力の減少による飛距離増の効果が語られることが多いですが、クラブごとの正確な影響度を示す定量的なデータは本記事では確認できていません。
- 気温もゴルフボールの飛び方に影響しますか?
- 空気密度は気圧だけでなく気温にも左右されるため(密度は気圧に比例し、絶対温度に反比例するという関係があります)、気温が高いほど空気密度は下がる方向に働くとされています。標高と気温はどちらも空気密度を左右する変数として、同じ原理の中で捉えることができます。