ルール・用具規定の由来/原理解説
カップの直径はなぜ4¼インチ(108mm)か——「水道管説」を史料で検証する
カップの直径4¼インチ(108mm)の由来を、R&Aの規則文の変遷(1886年の4インチ、1891年の4¼インチ)と、Royal Musselburghのホールカッター説、日本語圏の水道管説に分けて検証する。確定していること、二次情報の推測、裏付けのない部分を区別して示す。
ゴルフのカップ(ホール)の直径は4¼インチ(108mm)である。この半端な数字には「水道管の太さだった」という説明がよく付くが、史料で確かめられる部分と、語り継がれているだけの部分は分けて読む必要がある。本稿は、規則集の原文(転載を含む)と、本文を開いて確認できた資料に基づき、何が確定していて何が推測かを整理する。ボールの大きさの規格はボール規格の記事、規則を定める組織はUSGAとR&Aの記事を参照されたい。
関連して、ホール数とパーの成り立ちは18ホールとパーの記事、規則改定で用具の寸法が変わった例はウェッジの溝規制の記事も参照されたい。
要約
- 現行規則は、ホールを直径4¼インチ(108mm)、深さ4インチ(101.6mm)以上と定める(R&A、2023年版)[1]。
- R&Aの規則集に寸法が初めて現れるのは1891年で、「直径4¼インチ、深さ4インチ以上」とある。確認できた転載では1888年版までに寸法の条文はない[2][3]。
- それ以前の1886年には、Royal Isle of Wight GC の規則が「直径4インチ、深さ約6インチ」と書いており、4¼インチが唯一の選択肢だったわけではない[4]。
- 「1829年にRoyal Musselburghが購入したホールカッターが4¼インチで、それが元になった」という説は、複数の二次情報が述べる。ただし帳簿などの原史料は本稿では未確認である[5][6]。
- 「トム・モリスが水道管を使い、1891年に規格化された」という日本語圏の説明は、本稿が開いた2ページに出典の記載がなく、裏付けは確認できなかった[7][8]。
1. 現行規則が定めていること
R&Aの2023年版規則書の定義では、ホールは「直径4¼インチ(108mm)、深さ4インチ(101.6mm)以上」である。ライニング(金属などの内張り)を使う場合、その外径は4¼インチを超えてはならず、グリーン面から1インチ(25.4mm)以上下げて埋める(土質上難しい場合を除く)[1]。
図1は、同じ縮尺で描いたカップとボールの断面の比較である。ボールの直径は用具規則で1.680インチ(42.67mm)以上と定められており[9]、カップはその約2.5倍にあたる。この比は規則から計算した値で、設計の意図を示すものではない。
2. 寸法はいつ規則になったか——規則文で追う
規則集の転載サイト(ruleshistory.com)で各年版の文面を確認すると、次のように並ぶ。転載であって原本の写真ではない点は、末尾の「確認できなかったこと」に記した。
| 年・出所 | ホールに関する記述 |
|---|---|
| 1886年 Royal Isle of Wight GC の規則 | 円形で直径4インチ、深さ約6インチ、内側に鉄管を入れ、縁は地表より半インチ下げる[4] |
| 1888年 R&A 規則 | 確認した範囲で寸法の条文は見当たらない[10] |
| 1891年 R&A 規則(9月29日付) | 第3条「直径4¼インチ、深さ4インチ以上」。転載サイトの注記は「寸法が初めて明記された」[2] |
| 1895年・1899年 | 同じ文面が続く[11] |
| 1908年 | 金属ライニングを使う場合は縁より下に沈め、外径は4¼インチを超えないとする文が加わる[12] |
| 1984年 | 「4¼インチ(108mm)、深さ4インチ(100mm)以上」とミリが併記される[13] |
| 2016年版 | 深さは「4インチ(101.6mm)以上」に表記が変わる[14] |
1893年に刊行された書籍『Golf: A Royal and Ancient Game』にも、R&Aの規則として「ホールは直径4¼インチ、深さ4インチ以上」が収録されている[15]。したがって「1891年前後にR&Aの規則文として4¼インチが書かれた」ことは、複数の資料で確認できる。一方、ここから先の「なぜ4¼なのか」は、規則文には書かれていない。
3. 二つの語り——日本語圏の「水道管説」と英語圏の「Musselburgh説」
日本語の解説記事には、次の型が多い。「セントアンドリュースの管理人だったトム・モリスが水道(排水)管を切ってカップにした。その管の直径が108mmで、1891年にR&Aがそれを正式な寸法にした」。本稿が開いたみんなのゴルフダイジェストとホンダの記事は、どちらもこの型で、参考文献や出典の記載がない[7][8]。
英語圏とスコットランド側の説明は少し違う。Royal Musselburgh は1829年に地元の鍛冶屋 Robert Gay(Gray と綴る資料もある)へ1ポンドを支払い、ホールを作る道具を買ったとされ、その現物が今もクラブに展示されており、4¼インチのホールを切るという[5][6]。eGolf の記事もこの鍛冶屋の話を紹介し、日本で広まる水道管説より信頼できると主張している[16]。
ここで気づくのは、英語の資料の「drainpipe(排水管・土管)」が、日本語では「水道管」として語られている点である。管の種類が変わると、市の水道という別の物語が付きやすい。本稿はこれを推測の域で止め、変遷の経路までは確認していない。
4. 史料の有無で検証する
| 主張 | 確認できた根拠 | 本稿の扱い |
|---|---|---|
| R&Aが1891年に直径4¼インチを規則に書いた | 規則文の転載と1893年刊の書籍[2][15] | 確認できた |
| 1891年以前、R&A規則にホール寸法の条文はなかった | 1888年版までに条文が見当たらない。1891年版の注記も「初めて」[2][10] | 確認した範囲ではそう読める |
| 1829年にRoyal Musselburghがホールカッターを購入した | Crail GS と Scottish Golf History が記録として記述。いずれも二次情報[5][6] | 「とされる」 |
| そのカッターが4¼インチを切る | Crail GS、Golf Today が記述。実測値や展示の公式記録は未確認[5][17] | 「とされる」 |
| 4¼インチは古い排水管の直径に由来する | Golf Today は「おそらく」、Crail GS は「理由は歴史に埋もれた」と書く[5][17]。断定調の二次情報もあるが、原史料は示されていない | 推測。裏付けは確認できず |
| トム・モリスが水道管を使い、R&Aが1891年にそれに合わせた | 日本語2記事のみ。出典記載なし[7][8] | 裏付けは確認できず |
年代にも揺れがある。規則文では1891年だが、Crail GS は「1894年に公式の直径として確認された」、Scottish Golf History は「1893年に標準寸法として採用された」と書く[5][6]。規則集の転載が1891年・1895年・1899年に同じ文面を示す以上、年代の判断は規則文を優先するのが妥当だが、「確認」「採用」が何を指すのかは本稿では確かめていない。
もう一つの文脈として、19世紀後半のホールは穴が崩れやすく、金属のライナー(内張り)が導入された。Crail GS は1874年の議事録に「穴が壊れるのを防ぐため鉄のケースを入手する」とあることを紹介している[5]。1886年規則の「鉄管で内張り」も同じ流れにある。こうした背景は、管状のものがホール作りに使われたという話の筋書きとは矛盾しない。ただし、特定の管の直径が4¼インチだったことの証拠にはならない。
5. 結論——確定していること、推測、不明
- 確定:R&Aの規則に「直径4¼インチ、深さ4インチ以上」が書かれたのは1891年(確認できた範囲で初出)。以後、数値は変わらず、表記だけがミリ併記へ進んだ。
- 推測(二次情報):1829年のRoyal Musselburghのカッターが4¼インチで、それが広まった。元は排水管だった可能性が語られる。
- 不明:4¼インチという数字を誰が、何を測って選んだか。トム・モリス説・水道管説を裏付ける史料。
本稿で確認できなかったこと
- 1829年のRoyal Musselburghの支払い記録(帳簿・議事録)の原本。二次情報の記述にとどまり、鍛冶屋の名前の綴り(Gay/Gray)も揺れている。
- 展示されているカッターの実測値と、その公式な説明書き。
- 排水管説の原史料。ホール寸法の由来を書いた一次資料は、開いた範囲では見つからなかった。
- トム・モリスが管を使ったとする根拠。日本語2記事に出典はなく、英語の二次情報でも確認できなかった。
- 規則集の原本との照合。ruleshistory.com は転載(運営者は個人)であり、1893年刊の書籍と、R&Aの公式資料(2023年版・用具規則)で数値の一致を確認した範囲にとどまる。
- USGAの歴史ページは取得できなかった(403)。
- 1891年・1893年・1894年という年代の食い違いの理由。
参考文献・出典
- The R&A. Rules of Golf(2023年1月施行), Definitions「Hole」. PDF(本文を開いて確認)
- Rules of Golf 1891(R&A、1891年9月29日付). ruleshistory.com(転載。第3条と冒頭注記を確認)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1895」. ページ(転載)
- Royal Isle of Wight GC, Rules for the Game of Golf(1886年3月12日). ruleshistory.com(転載。ホールの記述を確認)
- Crail Golfing Society. The Hole Story. https://crailgolfingsociety.co.uk/blog/the-hole-story/(二次情報。1829年の記録・1874年の議事録・1894年の記述を確認)
- Scottish Golf History「1672 Musselburgh」ページ(1829年のRobert Gayからの購入、1893年の記述。本稿が開いた時点で確認。リンクはアクセス制限のため掲載しない)
- みんなのゴルフダイジェスト. ゴルフカップのサイズ由来. https://www.golfdigest-minna.jp/_ct/17361957(出典記載なしを確認)
- ホンダ ゴルフコラム(2011年1月31日). https://www.honda.co.jp/golf/column/20110131/(出典記載なしを確認)
- The R&A. Equipment Rules(2020年版), ボール直径「1.680 inches (42.67 mm)」. PDF(本文を開いて確認)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1888」. ページ(転載。寸法条文が見当たらないことを確認)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1899」. ページ(転載)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1908」. ページ(転載。第11条)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1984」. ページ(転載。定義「Hole」)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 2016」. ページ(転載。定義「Hole」)
- Clark, R. (ed.) (1893). Golf: A Royal and Ancient Game. https://archive.org/details/golfroyalancient00clar(Rules for the Game of Golf の収録箇所をOCRテキストで確認)
- eGolf. https://egolf.jp/life/77920/(鍛冶屋の話の紹介を確認。同記事も一次史料は示さない)
- Golf Today. What size is the golf hole, and why? https://golftoday.co.uk/what-size-is-the-golf-hole-and-why/(二次情報)
よくある質問
- カップの直径が4¼インチなのは水道管の太さだったからですか?
- 断定できません。確認できた範囲で、R&Aの規則に4¼インチが書かれたのは1891年です。由来として、古い排水管の直径だったという説明が二次情報にありますが、原史料は確認できませんでした。日本語圏で語られるトム・モリスの水道管説は、本稿が開いた2記事に出典の記載がありません。
- 4¼インチはいつ規則になりましたか?
- 確認できた規則文では1891年9月29日付のR&A規則(第3条)で、直径4¼インチ、深さ4インチ以上と書かれています。1888年版までの転載には寸法の条文が見当たりません。なお二次情報には1893年や1894年とする記述もあります。
- 1829年のホールカッターとは何ですか?
- 二次情報によると、Royal Musselburghが1829年に地元の鍛冶屋から約1ポンドで購入したホール作りの道具で、現物がクラブに展示され、4¼インチのホールを切るとされます。本稿では帳簿などの原史料と現物の実測は確認できていません。
- 現在の規則ではカップの寸法はどう決まっていますか?
- R&Aの2023年版規則書の定義では、直径4¼インチ(108mm)、深さ4インチ(101.6mm)以上です。ライニングを使う場合は外径が4¼インチを超えず、グリーン面から1インチ以上下げて埋めます(土質上難しい場合を除く)。
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