ルール・用具規定の由来/変遷史
ドロップはなぜ膝の高さになったか——投げる、肩越し、腕の長さからの変遷
ドロップは1744年から同じ形ではない。1754年の「投げる」、1908年の肩越し、1984年の腕の長さ、2019年の膝の高さへの変遷を規則集の転載とR&Aの2019年改定資料で確認し、変更理由と未確認の点を分けて示す。
現在のドロップは膝の高さから、ボールを離して落とす。しかし規則の歴史を読むと、ドロップは1744年の最初の規則集から同じ形で続いてきたわけではなく、高さも向きも何度も変わっている。本稿は、規則集の各年版の転載と、2019年改定にあたってR&Aが公表した資料を開いて確認した範囲で、変遷と理由を整理する。2019年に同時に変わった水域まわりの規則はペナルティエリアの記事、規則を定める組織はUSGAとR&Aの記事を参照されたい。
規則の変遷という点では、アンカリング禁止の経緯やキャディが規則上の役割になった経緯の記事も併せて読める。
要約
- 1744年の規則集に「救済のドロップ」はない。水に入ったボールは、ハザードの後方でティーアップして打つ(相手に1打を与える)。「drop another Ball」は紛失球の扱いで出てくる[1]。
- 投げる方式は1754年(ハザード後方6ヤード以上へ投げる)に現れ、1776年には頭越しに投げる規則が現れる[2][3]。
- 1908年のR&A規則は、ホールを向いて直立し、背後へ肩越しに落とすと定める[4]。1984年に腕の長さの方式へ変わり[3]、2019年に膝の高さとなった[5][6]。
- 2019年の高さの変更理由として、R&Aの資料は、ボールが救済エリア内に留まりやすくなること、バンカーで砂に埋まりにくくなること、手順の一貫性を挙げている[5]。
1. 「1744年から続く」わけではない
1744年の規則は、水(watery filth)に入った場合は「ボールを取り出し、ハザードの後方でティーアップして、どのクラブでも打ってよい。相手に1打を与える」とある。一方、第8条の「drop another Ball」は、ボールを失ったとき、最後に打った場所へ戻って別のボールを落とす、という紛失球の処置である[1]。つまり、現在のような「救済エリアに落とす」手順は、この時点では見当たらない。
1754年版では、同じ水の処置が「ハザードの後方6ヤード以上へ投げて、ティーアップする」に変わる[2]。ここで初めて、ボールを投げる動作が規則文に出てくる。
2. 投げる、頭越し、肩越し——19世紀の変種
転載サイトの要約では、初期の方法は次のように並ぶ[3]。
| 年 | 手順(出典の要約による) |
|---|---|
| 1754 | ハザードの後方6ヤード以上へ投げる |
| 1776 | Edinburgh Burgess Golfers の規則:頭越しに投げる |
| 1809・1812 | Honourable Company(1809)と R&A(1812):ホールを向き、頭越しに落とす |
| 1825・1828 | Perth(1825)と Blackheath(1828):肩越しに落とす方式を採用 |
| 1899 | ハザードの後方で、ホールを向き、直立して、頭の高さから落とす |
| 1908 | 背後へ肩越しに落とす手順が新設 |
当時のクラブごとの規則は統一されておらず、同じ時期に頭越しと肩越しが併存している。1825年のPerthの文面には「ハザードの後方で落としてよいが1打を失う」とあり、肩越しの記述そのものは、本稿が開いた範囲では要約側にしか確認できなかった。この点は末尾の「確認できなかったこと」に残す。
1908年のR&A規則(第8条)は、「プレーヤー自身が落とす。ホールを向いて直立し、背後へ肩越しにボールを落とす。違反の罰はホールの負け」と書く[4]。この「肩越し」は1984年まで続いたと、転載サイトの要約は述べる[3]。
3. 1984年と2019年——高さと「枠」の変更
1984年の規則では、ドロップは肩の高さで腕を伸ばして行う方式になった。転載サイトの1984年の変更点一覧に「New dropping procedure - player drops at arm's length」とある[7](高さが「肩の高さ」であることは、R&Aの「2019 Rules Modernisation - Archive Materials」の解説が旧規則を「肩の高さ、腕の長さ」と記すことで確認した)。
2019年の規則14.3は、ボールを膝の高さから、身体や用具に触れずに落下させる、とする。R&Aの2023年版規則書でも同じ手順が定められている[6]。さらに、落とす先は「救済エリア」(基準点から1または2クラブレングスなど)に限られ、ボールがそこに止まればよく、人や物に当たっても再ドロップは要らない[5]。
4. なぜ膝の高さになったのか
R&Aが公表した「2019 Rules Modernization - Archive Materials」には、次の説明がある[5]。
- 救済エリアに落として、そこから打つことで、ボールが元の位置に近い場所から打たれやすくなる。
- 膝の高さから落とすと、バンカーで砂に埋まる程度を抑えられる。
- 救済方法の間で手順が一貫し、「どこへ落とすか」の判定がしやすくなる。
- 2017年3月の提案では「任意の高さ」だったが、最終版は膝の高さとなった。これは手順の一貫性と簡潔さを保ちつつ、落下のランダム性(ばらつき)を残すためである。
低くするほど落下距離が短くなり、転がりが小さくなる、という物理的な見通しは自然である。ただし、本稿は転がり量の数値を測っておらず、規則制定側が示した定量データも開いた範囲では見つからなかった。数値の比較は載せない。
5. 要点
- ドロップの形は規則改定のたびに変わってきた。「昔から同じ」は史料と合わない。
- 2019年の変更は、高さだけでなく「救済エリア」という枠の導入とセットである。
- 理由はR&Aの公表資料に書かれている。「プレーを速くする」旨の説明は、この資料の別の箇所にもあるが、本稿では引用していない。
本稿で確認できなかったこと
- 1776年・1809年・1825年・1828年・1830年・1839年の規則原文。要約(ruleshistory.com の「play」ページ)の記述に依存している。1825年版の転載では、肩越しに落とす旨の文を確認できなかった。
- 1984年版の規則原文そのもの。R&Aの2019年改定の解説資料に旧規則が「肩の高さ、腕の長さ」と記されていることは確認したが、1984年版の原文は未確認。
- ruleshistory.com は個人運営の転載であり、原本との照合はしていない。
- 2019年改定の議論の経緯(どの案が、誰によって、どの順に検討されたか)。
- 膝の高さの落下で、転がり距離がどれだけ変わるかの実測データ。
参考文献・出典
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1744」. ページ(転載。第5条・第8条を確認)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1754」. ページ(転載。第5条を確認)
- ruleshistory.com「Play」(ドロップ方法の要約). ページ(二次的な要約)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1908」. ページ(転載。第8条を確認)
- The R&A / USGA. 2019 Rules Modernization - Archive Materials. PDF(本文を開いて確認。FAQ 12 と解説を参照)
- The R&A. Rules of Golf(2023年1月施行), Rule 14.3. PDF(本文を開いて確認)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1984」. ページ(転載。変更点一覧)
- ruleshistory.com「Rules of Golf 1825」. ページ(転載)
よくある質問
- ドロップが膝の高さになったのはいつですか?
- 2019年1月施行の規則14.3からです。それ以前は1984年から腕を伸ばした肩の高さ、1908年から1984年までは背後への肩越しでした(ruleshistory.comの要約による)。
- なぜ膝の高さなのですか?
- R&Aの2019年改定資料によれば、救済エリア内にボールを留まりやすくし、バンカーで砂に埋まる程度を抑え、手順を一貫させるためです。2017年の提案は任意の高さでしたが、最終版は落下のばらつきを残すため膝の高さになりました。
- 1744年の規則にドロップはありましたか?
- 救済のドロップはありません。水に入った球はハザードの後方でティーアップして打ちます。「drop another Ball」は紛失球の処置の語として出てきます。
- 肩越しのドロップはいつまで行われていましたか?
- 1908年のR&A規則で背後への肩越しが規定され、1984年に腕の長さの方式へ変わるまで続いたと、転載サイトの要約は述べています。
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