コース設計の原理/原理解説
グリーンのエアレーションはなぜ必要なのか——サッチ・締固まり・目砂の原理
穴だらけになるグリーンのエアレーションは、締固まりの緩和と表層有機物(サッチ)の管理が主な目的である。USGAとMSU転載のGreen Section Recordで確認できた範囲で、種類の違い、春秋に行う理由、転がりへの影響を整理する。
「穴だらけのグリーン」は、何のためか
春や秋に、グリーンに無数の穴が開き、砂がまかれて、しばらくボールが跳ねる。これがエアレーション(エアリフィケーション)である。目的は、グリーンを傷めることではなく、表層の状態を保つことだ。USGAは「エアレーションは、交通量による締固まりを緩和し、サッチを制御して健全な根を促すことで、硬く滑らかなパッティング面を作るのに役立つ」と説明する。本稿は、その理屈と、種類、時期、ボールの転がりへの影響を、確認できた資料の範囲で整理する。グリーンの速さそのものの作り方は別記事で扱う。
主な理由:サッチと有機物は「スポンジ」になる
USGAの記事(2017年、2019年)は、サッチが多いグリーンを、表層近くに水を抱え込むスポンジにたとえる。サッチが過剰だと、軟らかく凹凸のあるコンディション、不安定なグリーンスピード、病害のリスク増加につながるとされる。USGA Green Section Record(62巻5号)も、エアレーションの主目的は表層有機物(OM)の管理だとする。小さなコア(土の円柱)を抜けば、サッチが減り、排水が改善されるとされる。
表層有機物の目標は、ミシガン州立大学が公開するGreen Section Recordの転載(Moeller & Lowe、2016年)に、管理者が最もよく目標にするのは重量比で3〜4%以下、4%を超えると一般に懸念、と書かれている(測定法、特にサンプルの深さで値は変わるとも注記)。同資料は、ベントグラスのグリーンでは、年間でコアリングがグリーン面積の15〜20%に及ぶように行うこと、年間で1,000平方フィートあたり40〜50立方フィート以上の目砂を行うことを挙げる。ただし、有機物が少なすぎても、交通量や機械的ストレスに対する回復力を失うとUSGAは注意している。
種類の違い:コア、ソリッド、ニードル、砂の注入
- コアリング(中空タイン):土の円柱を抜く。有機物を物理的に取り除き、砂を詰めやすい。同資料は、有機物の除去に非常に有効だと述べる。
- ソリッドタイン:抜かずに穴を開ける。ネブラスカ大学の研究(2014年)では、年2回のソリッドタインでも、目砂を定期的に行えば年2回のコアと同等の有機物制御だったとされる。ただし、層構造・締固まり・過剰な有機物といった問題は、ソリッドタインでは直せないとも書かれている。
- ニードルタイン(ベンチング):鉛筆サイズの細いタインで、表面への影響が小さい。USGAは、芝が成長している間ならいつでも可能で、2〜4週間ごとに行う管理者も多いとする。
- 砂の注入(サンドインジェクション):物質を取り除かないため、コアリングやバーチカットの代わりにはならない。ゴルファーへの妨げは小さい。
水圧を使う方式、ディープタイン、スライシングは、本文で確認できた資料がなく、本稿では扱わない。
なぜ春と秋なのか:回復できる時期に行う
USGAは、エアレーションは芝にとってストレスで、生育条件が良いほど回復が早いと述べる。芝が健全で活発に育っているときに行えば、被害が小さく、早く元の状態に戻る。それ以外の時期は、回復が長引き、雑草の侵入や長期的な傷みのリスクが増える。冷地型芝のグリーンでは、春、晩夏、初秋が適期とされ、Green Section Recordは、春は芝が最も健全で回復が早いため理想的だと述べる。暖地型芝では、夏が適期とされる。日本のグリーンの芝の種類ごとの具体的な適期は、日本側の資料を確認できていない。
ボールの転がりへの影響と、回復までの期間
USGAは、エアレーションが影響するのは、通常、パッティング面の10%未満だと述べる。穴に砂を詰めると、表面は滑らかになり、水と空気の通り道ができ、サッチが薄まり、回復が早まるとされる。回復期間は、芝の種類、穴の大きさ、芝の健全度、天候で変わるとされ、決まった日数は示されていない。USGAは、1〜2週間はデコボコした状態が続くことがあるという趣旨の目安にも触れるが、これは不快感の目安として書かれたもので、回復期間の定義ではない。施肥や、砂の中から芝を成長させて穴を埋める作業が、回復を助けるとされる。
転がりへの影響が出ることを承知のうえで、年間を通じた速さとコンディションの安定のために一時的な不便を受け入れる、というのがエアレーションの考え方である。グリーンの硬さやスピードを調整する別の手段との関係は、スティンプメーター、時間帯による速さの変化の記事を参照してほしい。
本稿で確認できなかったこと
- 水圧方式・ディープタイン・スライシングの定義を示す一次資料。
- 回復期間の具体的な日数。
- 日本の高麗芝・ベントグラスのグリーンでの適期と回数。暖地型の「初夏」など細かい月の指定。
- 有機物の目標値が、日本のグリーンの条件でそのまま当てはまるか。
- 大学資料(日本・米国)での、エアレーションの効果の定量的な比較(今回はMSU転載のGreen Section Recordを中心に確認)。
出典
- USGA「5 Things Every Golfer Should Know About Aerating Greens」(2017)
- USGA「Answers About Aeration」(2019)
- USGA Green Section Record 62巻5号「Aeration Advice」、62巻20号「The Right Time to Needle Tine」
- Moeller & Lowe「Managing Organic Matter in Putting Greens」Green Section Record 54(21), 2016:https://gsrpdf.lib.msu.edu/?file=/article/moeller-lowe-managing-11-4-16.pdf
(USGAのページは直接アクセスできず、Internet Archiveの保存版で本文を確認した。)
関連記事:チェンバーズ・ベイのグリーンが批判された経緯。
よくある質問
- エアレーションの後、グリーンはどのくらいで元に戻りますか?
- USGAは、回復期間は芝の種類、穴の大きさ、芝の健全度、天候で変わるとしており、決まった日数は示していません。施肥や目砂が回復を助けるとされています。
- なぜ春と秋に行うのですか?
- 芝が健全で活発に育っている時期ほど回復が早く、被害が小さいためです。冷地型芝では春、晩夏、初秋が適期とされています。日本の芝の種類ごとの適期は、本稿では確認できていません。
- 穴を開けるとグリーンが傷むのではないですか?
- USGAは、エアレーションが影響するのは通常パッティング面の10%未満で、砂を詰めることで表面は滑らかになり、回復が早まると説明しています。
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