コース設計の原理/原理解説
グリーンはなぜ速くなるのか——刈高・ローリング・刈込み頻度を論文で確かめる
グリーンの速さは「ボールが受ける抵抗の小ささ」であり、刈高・ローリング・刈込みの頻度・施肥で変わる。大学の論文と資料で確認できた数値を整理し、速さと芝の健康のトレードオフ、確認できなかった点を示す。
速さは「抵抗の小ささ」でできている
前提として、スティンプ値が示すのは転がり距離であり、グリーンが速いとはボールが受ける抵抗が小さいことだ(測定器の仕組みはスティンプメーターの仕組み)。では、管理者は何を操作して抵抗を下げているのか。本稿は、刈高・刈込みの頻度・ローリング・施肥という「作る側」の要因を、研究論文と大学資料で確認できた範囲で整理する。時間帯による変化は別記事、エアレーションの目的は別記事で扱う。
刈高:低いほど転がるが、芝にはコストがかかる
最も基本的な要因は刈高である。Crop Science(1995年)に載ったSalaiz、Horst、Shearmanの研究(ペンクロスのクリーピングベント、毎日刈込み)では、刈高を3.2mmから4.8mmへ上げると、転がり距離は1989年に0.2m、1990年に0.4m短くなったと、アブストラクトに書かれている。同じアブストラクトは、速さの確保のために刈高を下げることは一般的だが、熱や乾燥に対する芝の弱さを高めうる、とも述べている。
ペンシルベニア州立大学のエクステンション資料は、過去40年でグリーンの刈高が0.25インチから最低0.10インチ程度まで下がったとし、ベントグラス(一年生ブルーグラスとの混生を含む)の許容範囲は5/32〜3/16インチ(約4.0〜4.8mm)程度だと述べる。これを下回ると、芝の密度や根の生産が落ち、環境や病害のストレスに弱くなるとされる。つまり、刈高を下げれば速くなるが、無制限には下げられない。
ローリング:刈高より効きは小さいが、効果は短い
アリゾナ大学のKopecらの研究(ペンクロス、刈高9/64インチと11/64インチ、約680ポンドのローラーを週2回、刈込みは週6回)は、本文を確認できた。結果は、ローリングなしで比べると低刈りが高刈りより17%速く、高刈りではローリングの有無で15%の差が出た。論文は、刈高だけの効果のほうが、ローリングだけの効果より大きいと述べる。低刈りでローリングなしの区は、高刈りでローリングした区より常に速かった。
ローリングの持続性については、ペンシルベニア州立大学のエクステンション資料が、転がり距離が5〜11インチ伸びるが、効果は24時間未満(秋は48時間)と短いとする。同資料は、週1〜2回のローリングなら土壌の締固まりへの影響は小さいとも述べる。Kopecらでは、2方向のローリングの効果も実質1日で、4日後にはほぼ消えていた。したがって、競技の当日に合わせて行う作業と考えるのが自然である。
刈込みの頻度と、施肥・水分
ペンシルベニア州立大学のLulis & Kaminski(International Turfgrass Society Research Journal、2021年)は、刈高2.1・2.5・2.9mmと、1日1回・2回・4回の刈込みを組み合わせた試験で、刈高を下げ、頻度を増やすほど、芝の品質が低下したと報告している。ただし転がり距離の具体的な数値はアブストラクトにはなく、本文は確認できなかった。英国STRIのWoodhamの小規模な試験(繰り返しなし)は、刈高を5mmから4.5mmに下げて90インチから104インチへ伸び、ローリング後はさらに伸びたが、ダブルカットなどの組合せの優位は6インチ未満だったとしている。これは一例にすぎない。
窒素施肥について、ペンシルベニア州立大学の資料は、通常の施肥の範囲では球速に有意な影響はなく、極端に減らすと転がり距離は伸びるものの、密度低下や雑草侵入のリスクがあると述べる。USGAの説明書の再掲は、毎日の低い刈込み・控えめな施肥・適切な灌水・計画的な目砂・サッチの少なさを、良いグリーンを作る定石としている。散水や水分で速さがどれだけ変わるかについて、数値を伴う一次研究は確認できなかった。
「速ければ良い」ではない理由
速いグリーンは、同じ傾斜でも曲がりが大きくなり、難しくなる(グリーン複合体の設計、チェンバーズ・ベイの例)。一方で、速さは芝の体力を削って得られる側面がある。Hole Notesの再掲記事も、競技水準のコンディションを長く続けすぎると芝が傷みやすいと述べる。管理側から見れば、速さは目標であると同時に、芝の健康との引き換えで決める値である。
本稿で確認できなかったこと
- Salaiz他(1995)、Lulis & Kaminski(2021)の本文(アブストラクトのみ確認)。後者の転がり距離の具体値。
- Kopecらの論文の掲載誌名・号(MSUのアーカイブ版で確認)。表の数値の一部は、本文の記述(17%・15%)と単純には一致して見えるため、本稿は本文の記述のみを引用した。
- 散水・水分、トップドレッシング、品種や密度が転がり距離に与える影響の数値。
- 窒素量と転がり距離の関係を示す別研究(要約のみ確認し、本文は未確認)。
- 日本の高麗芝グリーンへの当てはめ。
出典
- Salaiz, Horst, Shearman (1995) Crop Science 35(5):1422-1425(アブストラクト):https://acsess.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.2135/cropsci1995.0011183X003500050027x
- Lulis & Kaminski (2021) International Turfgrass Society Research Journal(アブストラクト):https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/its2.10
- Kopec他「Bentgrass Green Performance: Initial Investigations of Mowing Height and Rolling」:https://archive.lib.msu.edu/tic/tgtre/article/1999jan9.pdf
- Penn State Extension「Factors affecting green speed」:https://extension.psu.edu/factors-affecting-green-speed
- Woodham(STRI):https://strigroup.com/wp-content/uploads/2022/08/The-Effects-on-Ball-Speed-of-Mowing-and-Rolling-Treatments-on-a-Golf-Green.pdf
- Hole Notes 2000年8月号(USGA説明書の再掲):https://archive.lib.msu.edu/tic/holen/article/2000aug24.pdf
よくある質問
- グリーンを速くする一番大きな要因は何ですか?
- Kopecらの研究では、刈高だけの効果のほうが、ローリングだけの効果より大きいと報告されています。ただし1つの条件での試験結果であり、すべてのグリーンに当てはまるとは限りません。
- ローリングの効果はどのくらい続きますか?
- ペンシルベニア州立大学の資料では、効果は24時間未満(秋は48時間)と短いとされています。そのため競技の当日に合わせて行う作業という性格が強いと考えられます。
- 刈高を限界まで下げれば、もっと速くなりますか?
- 距離は伸びますが、芝の密度や根の生産が落ち、熱や乾燥、病害に弱くなるとされます。ベントグラスでは5/32〜3/16インチ程度が許容範囲との資料があります。
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