コース設計の原理/原理解説
スティンプメーターの仕組み——「10フィート」とは何を測った数字なのか
グリーンの速さを表すスティンプ値は、ボールを一定の条件で転がし始めたときの「転がった距離」である。36インチのバー、約20度、30インチの切り欠きという仕様と測定手順を、確認できた一次情報と確認できなかった点を分けて整理する。
「スティンプ10」は何を測った数字か
グリーンの速さは「スティンプ10」「11フィート」のように語られる。この数字はボールの速度でも、芝の長さでもない。決まった条件でボールを転がし始めたとき、平らなグリーンの上で何フィート転がって止まったかという、距離の値である。用語の短い説明はスティンプ値(用語集)にもある。本稿は、その測定器がどう作られ、なぜ「距離」で速さを表せるのか、何が一次資料で確認でき、何が確認できなかったかを整理する。
考案と普及:1935年のアイデア、1970年代の改良
USGAの説明書を再掲した記事(Hole Notes、2000年8月号)には、約60年前にエドワード・S・スティンプソン(1935年のマサチューセッツ・アマチュア選手権の優勝者)が考案し、1970年代半ばにUSGAの技術部門が改良して、1978年にコース管理者向けに提供を始めた、という趣旨の記述がある。同記事は、この器具をコース間の比較のためのものではないとも明記している。1976年の全米オープンでの使用、アルミ製への改良者といった逸話は、本稿では二次資料でしか確認できていないため断定しない。
装置の仕様:36インチのバーと切り欠き
同記事に再掲された説明書によれば、スティンプメーターは長さ36インチ(約91cm)のアルミ押出材のバーで、全長にわたってV字の溝がある。溝の挟み角は145度で、ゴルフボールを2点で支える。先端(細くなった側)から30インチ(約76cm)の位置に切り欠きがあり、バーを約20度まで持ち上げると、ボールは必ずこの切り欠きから離れて転がり始める。なお「20度」は溝の角度ではなく、バーを持ち上げる角度である点に注意したい。USGAのStimpmeter Instruction Booklet(2012年版)の記述を整理した本メディアの用語集とも、長さ・溝の角度・切り欠きの位置は一致している。
この構造の意味は、「誰が・いつ測っても、ボールがバーを離れる条件がほぼ同じになる」ことにある。説明書は、先端に達したときのボールの速度は常に同じになるという趣旨を述べている。離脱速度の具体的な値(毎秒6フィート、約1.83m/sとされる)は、本稿が確認できた限りUSGAの説明書の再掲には書かれておらず、二次資料の記載にとどまる。そのため、この数値は断定しない。
「10フィート」の意味:距離は抵抗の大きさの裏返し
同じ速さで転がり出したボールが、どこまで転がるかを決めるのは、主に芝の表面がボールに与える抵抗である。抵抗が小さいグリーンほど遠くまで転がり、スティンプ値は大きくなる。一般的な力学の関係として、一定の減速で止まるボールの転がり距離は初速の2乗に比例する。このため、スティンプ値が10%大きいグリーンで同じ強さで打てば、およそ10%遠くまで転がる、と考えるのが目安になる。この「減速が一定」という前提は単純化であり、実際のグリーンでの当てはまりは、本稿では論文で確認していない(パットの転がりの物理はパットの転がりは物理でどこまで予測できるかで詳しく扱っている)。
重要なのは、スティンプ値が1つの初速での1回の測定だという点だ。実際のパットは、もっと遅い速度で転がり、傾斜もある。だから、値は「グリーン同士のおおまかな速さの比較」には役立つが、「このパットは何cm曲がるか」を直接教えるものではない。その関係はAimPointの記事の簡易モデルを参照してほしい。
測定の手順とばらつき
再掲された説明書に書かれた手順は次のとおりである。
- ほぼ平らな約10フィート四方の場所を選び、ティーで起点を示す。
- ボールを1方向に3球転がし、3球が互いに8インチ以内に止まらなければやり直す。
- 停止位置の平均にティーを刺し、反対方向にも同様に3球を転がす。
- 2方向の距離の平均を、そのグリーンの速さとして記録する。2方向の差が18インチを超えると、平均の精度に疑問があるとされる。
往復で測るのは、傾斜や芝目の影響を打ち消すためと読める。傾斜地での補正式は、ウェブ上では調和平均を使う式が紹介されているが、本稿が確認できた一次資料にはなく、式は載せない。なお、USGA Green Section Recordでは、グリーンスピードの確認は刈込みやローリングの直後を避け、30分以上あけ、表面の水分が少ない状態で行うとされる(時刻による変化は朝と午後でグリーンの速さはなぜ変わるのかで扱う)。
数字の目安:古い表と、現在の基準
同じ2000年の再掲記事には、一般のプレー向けでは8フィート6インチ超を速い、7フィート6インチ〜8フィート6インチを中程度、トーナメント向けでは9フィート6インチ超を速い、とする表がある。ただし、これは約25年前の資料であり、現在の基準表ではない。現在のUSGAの目安表(2013年の記事など)はアクセスできず、確認できていない。ウェブ上には別の数値表もあるが、2000年の表と食い違うため、本稿では採らない。また、同記事はUSGAがグリーンスピードを標準化しようとするものではないとも述べている。
本稿で確認できなかったこと
- USGA Stimpmeter Instruction Booklet 2012年版の本文そのもの。Hole Notes 2000年8月号の再掲(USGAの説明書)はPDFの本文で確認したが、2012年版そのものではない。2012年版の記述は、本メディア用語集の記述で代替した。
- 離脱速度(毎秒6フィート=1.83m/s)の一次資料での記載。Hole Notes 2000年8月号の再掲の本文には速度の数値の記載がなく(ボールの速度が常に同じになる設計だとする記述のみ)、ほかに異なる値を示す検索結果もあり、未解決。
- 傾斜地の補正式。
- 2013年の第3世代(切り欠きが2つあるとされる)のUSGA一次記載。
- 現在のUSGAによるスティンプ値の目安表。
- 「転がり距離は初速の2乗に比例」をスティンプ測定に当てはめて検証した論文。
出典
- Hole Notes 2000年8月号「STIMPMETER Instructions」(USGAの説明書の再掲):https://archive.lib.msu.edu/tic/holen/article/2000aug24.pdf
- USGA Green Section Record 62巻12号「Details Matter When Measuring Green Speed」
- 本メディア用語集「スティンプ値」(USGA Stimpmeter Instruction Booklet 2012年版を参照)
よくある質問
- スティンプ値は何を表していますか?
- 決まった条件でボールを斜面から転がし始めたとき、平らなグリーンの上で止まるまでに転がった距離(フィート)です。速度ではなく距離で、大きいほど芝の抵抗が小さい(速い)ことを示します。
- スティンプ値が違うコース同士は比較できますか?
- USGAの説明書の再掲では、この器具はコース間の比較を目的としたものではなく、各コースの管理に役立てるためのものとされています。目安にはなりますが、条件の違いがあるため厳密な比較には向きません。
- なぜ2方向で測るのですか?
- 傾斜や芝目の影響を打ち消すためと考えられます。説明書では、反対方向にも3球を転がして、2つの距離の平均を記録するとされています。
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