原理原則ゴルフ

戦略と統計の原理/原理解説

ラフから何ヤード・何番手変わるのか——露出率と刈高の実験、ツアー統計で通説を検証する

「ラフでは1〜2番手上げる」は本当に数字で裏付けられるのか。Arkansas大学の7番アイアン実験、PGAツアーのShotLink統計、Shot Scopeの公表値を、対象と標本の条件つきで読み、確認できたことと確認できなかったことを分けて整理する。

監修・執筆:原理原則ゴルフ編集部(編集部)

「ラフからは番手を上げる」という助言は広く聞かれる。一方で、既存記事(ラフから打つとなぜ球が止まらないのか)で扱ったとおり、ラフでは逆に「飛びすぎる」フライヤーも語られ、助言は一方向ではない。本稿は、こうした通説に数字の裏付けがあるのかを、本文を開いて確認できた資料だけで検証する。確認できたのは、米国の大学が行った7番アイアンの実験(Golfdom掲載の解説記事)、PGAツアーのShotLinkデータを使ったBroadie(2012)の論文、Shot Scopeとの公表値である。通説の「1〜2番手」にそのまま対応する数値は、確認できなかった。

要約

  • Arkansas大学の実験(Golfdom, 2016)では、7番アイアンのキャリーは、ボールの露出率80%で平均約1.8ヤード、60%で約4.1ヤード減ったと報告されている。ただし打ち手は2名、刈高ごとに各5球で、寒地型の芝3種のみの結果である。
  • 同じ実験で、刈高3.0インチ(芝種はタルフェスクまたはケンタッキーブルーグラス)ではバックスピンが平均25%減ったとされる。キャリーの損失よりも「止まりにくさ」の方が大きな変化として報告されている。
  • PGAツアーでは、100〜200ヤードのラフの期待打数はフェアウェイより0.22〜0.25打多い(Broadie 2012, Table 9から本メディアが差を計算)。ラフ全体の罰は50〜150ヤードで平均0.20打とされる。
  • Shot Scopeの公表値では、60〜100ヤードのアプローチの平均寄りは、フェアウェイ40フィート、ラフ46フィート、バンカー56フィートである。
  • 以上から、「一律に1〜2番手上げる」を裏付ける定量データは本稿では確認できなかった。ラフの影響は、距離の損失より、露出の度合いによるばらつきとスピンの欠落として現れる可能性がある。

1. 通説は「どこ」で語られているか

ラフの打ち方を扱うレッスン記事やQ&Aでは、「ラフでは1〜2番手大きいクラブで」「でもフライヤーに注意」といった言い方が並ぶ。本稿はこの「1〜2番手」の出典を確認できていない。以下では、通説そのものを前提にせず、距離・スピン・寄りの3つの観点で、数字が公開されているものだけを並べる。

2. 露出率とキャリー:Arkansas大学の実験

Golfdomに掲載された研究解説(Strunk, Karcher, Young, Richardson, Patton, 2016年7月、Arkansas大学)は、ボールが芝の上にどれだけ露出しているかを、打つ前にデジタル画像解析で数値化し、7番アイアンのショットをローンチモニターで計測した実験である。芝種と刈高は、クリーピングベントグラス(0.5〜0.7インチ)、ケンタッキーブルーグラス(1.0〜3.0インチ)、タルフェスク(3.0〜4.0インチ)。打ち手は2名(スクラッチの元大学選手と、ハンディ指数8の選手)で、各刈高5球である。

解説記事は、露出80%でキャリーが平均1.8ヤード、60%で4.1ヤード減ると述べている。露出率は芝種と刈高で大きく変わり、ケンタッキーブルーグラス3.0インチでは9〜66%、ベントグラス0.5インチでは92〜99%だったとされる。

0y露出100%(基準)1.8y露出80%4.1y露出60%縦軸: 平均キャリー減少(ヤード)/7番アイアン・2名・各刈高5球
図1: 露出率とキャリー減少(Golfdom掲載の解説記事の数値。本メディア作図)。露出100%は基準としての0を置いた。

この数字を読む際の注意は次のとおり。

  • 損失は7番アイアン1本の結果であり、他の番手には外挿できない。
  • 2名、各刈高5球というサンプルは小さい。統計的な信頼区間は解説記事に出ていない。
  • 解説記事自身が、暖地型芝(バミューダグラス、ゾイシアグラスなど)では同じとは限らないと書いている。日本の野芝・高麗芝の多いコースへの当てはめは、この研究だけではできない。
  • 露出が低い(9〜30%台)場合のキャリー損失は、確認できた本文に数値がなかった。深いラフでの損失が露出60%の延長線上にあるかは分からない。

解説記事はまた、ボール初速の方がキャリーより「はるかに強く」ライと相関したと述べ、フェアウェイとラフの方向精度の差は低ハンディの打ち手でのみ見られたとしている。

3. 露出が減るとスピンはどうなるか

同じ解説記事によると、タルフェスクまたはケンタッキーブルーグラスの3.0インチでは、バックスピンが平均25%減った。バックスピンが減ると、着地後に止まりにくくなる。落下角度と止まり方の関係は着弾角度の記事、スピン減衰はバックスピンの減衰の記事で扱っている。

ここで本メディアの読みを一つ付ける。キャリーの損失が数ヤードにとどまる一方でスピンが約4分の1減るなら、ラフでの問題は「届かない」ことより「止まらない」ことにある可能性がある。ただし、これは7番アイアンの実験からの推測であり、ウェッジや長いクラブで同様かは確認できていない。

4. ツアーの統計:ラフの罰は何打か

Broadie(2012, Interfaces)は、2003〜2010年のPGAツアーの800万ショット超(ShotLink)から、位置ごとのホールアウトまでの平均打数を推定した。Table 9によると、フェアウェイとラフの平均打数は次のとおりである。

ホールまでの距離フェアウェイラフ差(本メディア計算)
100ヤード2.803.020.22
120ヤード2.853.080.23
140ヤード2.913.150.24
160ヤード2.983.230.25
180ヤード3.083.310.23
200ヤード3.193.420.23
0.22100y0.23120y0.24140y0.25160y0.23180y0.23200y横軸: ホールまでの距離 / 縦軸: ラフの期待打数−フェアウェイの期待打数(打)
図2: PGAツアーのラフの罰(Broadie 2012, Table 9の値から本メディアが差を計算し作図)。

論文は、50〜150ヤードのラフの罰は2009年・2010年とも平均0.20打(標準誤差0.004)と報告している。また、2008年から2009年にかけてこの罰が大きく下がったことを示し、2010年のグルーブ規制の前に起きていた変化であることから、規制だけでは説明できないとしている。この「罰」は、木に阻まれた回復ショットを別扱いにした上でのラフの値である。ラフの深さや芝種の内訳は論文では分けられておらず、ツアー選手の値であるため、アマチュアにそのまま当てはまる保証はない。

5. 寄りの差:Shot Scopeの公表値

Shot Scopeのブログは、60〜100ヤードのアプローチの平均寄りを、フェアウェイ40フィート、ラフ46フィート、バンカー56フィートと記している。標本数・ハンディ別の内訳・公表日は記載がなかった。ラフはフェアウェイより約6フィート遠い、というのが読み取れる範囲である。これは距離ではなく「寄り」の差であり、スピンの欠落や、ボール位置のばらつきが混ざった結果と考えられる(本メディアの推測)。

6. 番手選びにどう落とし込むか

確認できた範囲から言えることを整理する。

  • キャリーの損失だけを見るなら、7番アイアンの実験では60〜80%の露出で数ヤードにとどまる。1番手あたりの距離差は人によって違うので、番手の距離ギャップと自分の数字を並べて比べるのが現実的である。
  • 「ラフでは番手を上げる」と「フライヤーは番手を下げる」は、露出の度合いで逆向きの効果が出ることを示唆する。ボールが沈んでいるのか、浮いているのかを、打つ前に見ることが第一になる。
  • 止まりにくさは、グリーン手前に落として転がす狙いで吸収できる場合がある。ピンを直接狙う判断はミスの方向の管理の考え方と合わせて読むとよい。
  • 風・高低差・ライを含む補正の物理は別記事にある。

本稿は、「何番手上げるか」の答えを出す記事ではない。通説が検証済みかを確かめる記事であり、確認できた範囲では、一律の番手補正を支持する出典は見つからなかった、という整理である。

本稿で確認できなかったこと

  • 「ラフで1〜2番手上げる」の出典と根拠となる数値。
  • 7番アイアン以外(ウェッジ、ロングアイアン、ユーティリティ)のキャリー損失。
  • 暖地型芝(野芝・高麗芝・バミューダ)での露出率とキャリー・スピンの関係。
  • 露出が非常に低い深いラフでのキャリー損失の数値(Golfdomの本文に記載なし)。
  • Arkansas大学の元論文(査読誌掲載の本文)。本稿はGolfdomの解説記事のみを開いて確認した。
  • Shot Scopeの寄りの標本数・対象ハンディ。

参考文献・出典

  1. Strunk, Karcher, Young, Richardson, Patton. Golf Ball Lie, Mowing Height, and Shot Execution. Golfdom(2016年7月19日)。https://www.golfdom.com/golf-ball-lie-mowing-height-and-shot-execution/
  2. Broadie, M. Assessing Golfer Performance on the PGA TOUR. Interfaces, 42(2), 146-165(2012)。ShotLink 2003〜2010、800万ショット超。プレプリント版を確認。https://columbia.edu/~mnb2/broadie/Assets/strokes_gained_pga_broadie_20110408.pdf
  3. Shot Scope. Approach shots average proximity(企業発表)。https://shotscope.com/blog/practice-green/stats-and-data/approach-shots-average-proximity/
  4. 本メディア「ラフから打つとなぜ球が止まらないのか」「番手の距離ギャップ」「風・高低差・ライで距離が変わる理由」。

図1は出典の数値を描いた。図2と表の「差」の列は、Broadie(2012)Table 9の値から本メディアが引き算した。

よくある質問

ラフでは何番手上げればよいですか。
本稿で確認できた資料には、一律の番手補正を裏付ける数値はありません。Arkansas大学の7番アイアン実験では、露出80%でキャリー約1.8ヤード、60%で約4.1ヤード減ったと報告されていますが、打ち手2名・寒地型芝のみの結果です。「1〜2番手」は通説で、出典は確認できていません。
ラフから打つとスピンはどれくらい減りますか。
同じ実験の解説記事では、タルフェスクまたはケンタッキーブルーグラスの3.0インチで、バックスピンが平均25%減ったとされています。7番アイアンの結果で、他のクラブや暖地型芝は確認できていません。
プロの統計ではラフの罰はどれくらいですか。
Broadie(2012)によると、PGAツアーでは50〜150ヤードでラフの罰は平均0.20打(2009〜2010年)です。ツアー選手の値であり、アマチュアにそのまま当てはまるとは限りません。
日本の芝でも同じ結果になりますか。
分かりません。研究の解説記事自体が、暖地型芝では同じとは限らないと書いており、野芝・高麗芝での同種の実験は確認できていません。

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