ルール・用具規定の由来/原理解説
なぜハンディキャップという制度が生まれたのか——技量差を公平に競わせる仕組みの原理
スクラッチゴルファーとハンディキャップ20のゴルファーが、同じコースで公平に競うにはどうすればよいか。17世紀スコットランドの素朴な打数交渉から、コース難易度を数式で補正するスロープレーティングの発明まで、ハンディキャップという制度の原理を辿る。
17世紀末、エディンバラの学生が記した最古の記録
ゴルフでハンディキャップという発想がいつ生まれたかを遡ると、公式な制度が整う遥か以前、17世紀末のスコットランドに行き着くとされる。エディンバラの医学生Thomas Kincaidの日記(1687年ごろ)には、ハンディキャップに当たる調整の最古の記録とされる記述がある。なお、「3ホールに1打」(third-one)、「1ホールに1打」(one more)といった打数の譲歩の呼び方は、Farnieの『The Golfer's Manual』で説明されているものであり、Kincaidの日記そのものの記述ではない。
19世紀の「平均スコア方式」が抱えていた欠陥
19世紀後半の英国では、ある期間のベストスコア数回の平均とパーとの差でハンディキャップを算出する方式が広く使われたとされる。しかしこの方式は、コースごとの難易度の違いを考慮しないため、あるクラブで算出したハンディキャップを別のコースへそのまま持ち込めないという問題を抱えていたとされる。この欠陥への対応として、Ladies Golf Union(LGU、1893年設立)は1890年代から1900年ごろにかけて、クラブ任せではなく統一的なコースレーティングに基づく制度を作ったとされる。男子側でも1924年にCONGU(Council of National Golf Unions)の前身にあたる組織が生まれ、1926年に統一的な制度が導入された(準備は1925年、施行は1926年3月1日とする記述がある)。
「難しいコースほど下手な人が損をする」を数式で補正する
ハンディキャップ制度の核心にある考え方は、「コースの難しさは、上級者と初級者に同じようには効いてこない」という事実をどう補正するかにある。ラフが深い、フェアウェイが狭い、グリーンが起伏に富むといった難しさは、スクラッチゴルファーよりもボギーゴルファーにより強く作用する傾向がある。コースレーティング(スクラッチゴルファーの平均的なスコア)だけでは、この非対称性を捉えきれない。そこで、ボギーゴルファーにとっての相対的な難しさを数値化するスロープレーティング(55〜155の範囲、標準値113)が用いられる。ハンディキャップの差分は、おおむね次の式で計算される。
ハンディキャップ差分 =(調整後スコア-コースレーティング)× 113 ÷ スロープレーティング
難しいコースでのボギーゴルファーのスコアは、易しいコースでの同じスコアよりも大きく評価される。コースの難しさによる不利が、技量に応じて補正される仕組みである。
スロープレーティングを生んだ研究
スロープレーティングは、USGAが1979年に発足させたHandicap Research Teamで、中心人物のDean Knuthらが開発したとされる(Southern California Golf Associationの資料による)。1982年にコロラド州で新方式のコースレーティングが実施され、1983年にスロープが試験された。全米での本格展開は1987年からである。研究には最大で約200万ドルがかかったとされるが、これはWikipediaの記述で、原典は確認できていない。「技量差のある者同士を、コースの違いを越えて公平に競わせる」という原理を国や地域を越えて統一しようとしたのが、USGAとR&Aが共同で2020年に導入したWorld Handicap Systemである。
関連記事:1ラウンドが18ホールになった経緯、マッチプレーとストロークプレーの戦略の違い、WHSのハンディキャップ指数とスロープレーティング。
本稿で確認できなかったこと
- Kincaidの日記の原文と、日記に記された打数譲歩の具体的な表現。
- 研究費の約200万ドルの原典。
- LGUの制度の正確な導入年(1890年代〜1900年ごろ)。
- CONGU発足と1926年の制度の細部。
- USGAのハンディキャップ史の公式ページ(アクセス拒否)。
出典
- History of Course Rating(Southern California Golf Association) https://www.scga.org/pdfs/volunteers/10125/history_of_course_rating.pdf(協会公式資料、本文確認)
- Handicap (golf)(Wikipedia) https://en.wikipedia.org/wiki/Handicap_(golf)(二次資料)
- World Handicap System(Wikipedia) https://en.wikipedia.org/wiki/World_Handicap_System(二次資料)
よくある質問
- スロープレーティングとコースレーティングは何が違いますか?
- コースレーティングはスクラッチゴルファー(ハンディキャップ0)が出す平均的なグッドスコアを示す指標です。一方スロープレーティングは、同じコースをボギーゴルファーがプレーした場合の相対的な難しさを、スクラッチゴルファーとの比較で数値化したもので、55〜155の範囲で示され、標準値は113とされています。
- 19世紀の「平均スコア方式」はなぜ不公平だったのですか?
- 技量の低いゴルファーほど自分の平均的なベストスコアどおりにプレーすることが難しく、ハンディキャップの信頼性が低くなりやすかったうえ、コースごとの難易度差を考慮していなかったため、異なるコース間でハンディキャップをそのまま使えないという欠陥があったとされています。
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